第4話 ハッピーエンドはつらいです!



「今頃、あのお嬢さんは上手くいってるアルカネ?」


 別の国へ向かう船の上で薬師は呟いた。


「大人しそうでオドオドしている娘だったから特製の自白剤をあげたけど、素直に旦那さんと話せているといいアルネ」


 薬を処方する前の質問という名のカウンセリングで夫婦間の問題に気づいた。


「前の客は血圧高いくせに用量以上の精力剤を飲んでポックリ逝ったアルからね。ったく、薬師の言うことを聞かないせいで変な噂がたったアルヨ」


 ぶつくさと文句を言いながら無免許で国を追い出された薬師は新たな商売先を求めるのだった。




 ♦︎




「ふむ。今年の冬は例年より寒くなるそうだな」


 文官からの報告書を見ながらピートさまが呟く。

 有能な彼の元へは次から次へと仕事が舞い込んで来て大変そうだ。


「ベルは寒くないかい?」

「いえ、むしろ暑いくらいです……」


 声をしぼませながら私は質問に答える。

 お尻の下と背中から感じる彼の体温のせいで心臓がドキドキして頭が回らないのだ。

 どうして彼は私を膝の上に座らせて仕事しているんだろう?


「あの、そろそろお邪魔になりますし私は自室に」

「何を言っているんだい。君の姿を見ていないと私はストレスで仕事の効率が落ちると説明しただろう」


 薬を飲んでしまった時とは違い、真面目なクールな声でとんでもないことを口にするピートさま。


「だからって膝の上だなんて。他の人に見られたら恥ずかしいですぅ……」

「むしろ見てくれた方がいい。そしたら君に悪い虫は近付かなくなる。私としても安心だ」

「うぅ……」

「君は私のものだ」


 耳元で囁いてギュッと抱き締められてしまうと何も抵抗出来なくなる。

 まんざらでもないので嫌な気持ちにはならないけど、普段から私達夫婦を見ている使用人達は呆れた笑みを浮かべているのを私は知っている。


「そうだベル。今年のマフラーはいつもの倍以上の長さにしてくれないか?」

「あまり長いと邪魔になりますよ」

「いいや。一つのマフラーを君と私の二人で巻けばずっと側にいられるだろ?」

「もう! お揃いのマフラーで我慢してください!」


 頭のおかしい事を言い出した彼に私は抗議した。

 もしもそんな物を用意したら彼は何処へ外出するのにも私を連れて行こうとするだろう。

 既に一度、舞踏会に呼ばれた時も彼は掴んだ私の手をずっと握っていて恥ずかしい思いをしたのだ。


「まさかこんな風になるなんて……」

「そんなに怒るなんて私のことが嫌いになったのかいベル?」

「そうじゃありませんけど……」


 膝の上に乗ったまま上を見上げるとそこには変わらない綺麗な旦那さまの顔があって彼も私を見ている。


「ふむ」


 相変わらずまつ毛が長いなと顔を見ていたら突然ピートさまが口づけをしてきた。

 甘くて強い情熱的なキスに火照って快楽に溺れそうになる寸前のところで唇が離れる。


「い、いきなり何をするんですか……」

「私の顔を見ていたのでキスがしたいのかと」

「ピートさまじゃないんですからそんなことしませんよ!!」


 すっかり色ボケになってしまった彼をポカポカと叩きながら私は笑った。

 あの一件で私達夫婦の関係は変わった。

 夫婦の部屋のベッドは小さめのものを用意して自室は子供部屋にするつもりだ。

 だって、今は彼の隣が一番素直になれる安らげる場所になったから。


「まったくもう……ピートさま。愛していますよ」

「私もだよベル」


 今度は私の方から近づいてキスをした。


「……今日の仕事は止めだ。ちょっと集中出来ないからゆっくりベッドで休もう」

「きゃ! ビックリするから急に抱きかかえないでください。というかこんな昼間から何処に運ぶつもりですか!?」


 訂正。彼の隣は体が追いつかないかもしれません。

そういえば最近では国一番のおしどり夫婦と呼ばれていますが、私達の場合は旦那様の愛に押し潰されそうで困ってます。


〈完〉







※この作品はカクヨムコン8の短編小説に応募しています。面白かったという人は応援・評価等をお待ちしてますね! 他にも過去に短編はいくつか書いているのでそちらもよろしければどうぞ!



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お飾り夫人ですが旦那が間違えて毒を飲みました。なんだか様子が変です。 天笠すいとん @re_kapi-bara

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