第65話

 帝都ファンドリールの本社は四階建てになっており、最上階のフロアが社長室になっている。


 一階には受付があり、その横に応接室と来客用の休憩スペースがある。


 二階から三階はファンドリールの社員たちが働く部署が入っており、それぞれの階に広いフロアが設けられている。


 そして、その社員たちの働くフロアの中央に大きな吹き抜けが広がっており、そこを中心に放射線状に廊下が広がっている構造である。


 ツノダは珍しくスーツを着て、最上階の社長室に入る。


「いやあ、こういう感じなんすねえ、社長さんともなると。ほんとうらやましい! 我々って、我々と比べてもなんですけどね、うちなんて狭い事務所に、こう机を並べてですねえ、なんかこう衝立をそれぞれ置いてガチャガチャしてるとこで働いてるもんですから、個室があるって言うだけで、もうねえ」


「ツノダさん、でしたか?」


「あ、はい、すいません。はい、ツノダです」


「あなたが、イレイサーを統括している、という事で間違いありませんか?」


「はい、私が。私が統括をしております」


「では、今回の件も、あなたが責任者という事で間違いありませんね?」


「あ、はい。申し訳ありませんでした! うちのハルキがって、こんな事を社長に言っても仕方ないんですけどね、ほんという事を聞かない奴で」


「ツノダさん。私が申しあげている意味がおわかりですか?」


「え? はい、あれですか? またそちらに何かご迷惑を?」


「迷惑? 迷惑というレベルではありません。前回の件は私もずいぶんと譲歩いたしましたのよ、おわかりです?」


「あ、はい、十分、承知しております」


「国家情報保安局へも苦情を上げさせて頂きましたが、一向に改善されませんしね。ここからイレイサーはどのように動くおつもりかしら?」


「あー、キョーカ社長。一度、持ち帰って会議を開かせていただきたいと思いますので、今日の所は、これで、失礼を」

 ツノダがそう言いながら席を立ちあがる。


「ツノダさん。やはりあなたにはここに居てもらわなくてはならないようですね。彼らがこの後どうなるか、一緒に見届けてもらえます?」


 と言うと、隣室から黒いスーツを着た男が二人現れ、ツノダを両脇から拘束すると、別室に連れていかれる。


「いえ、あの、私はですね、その、あの、何これ? ちょっと! 痛い! 痛い痛い! イタタタ!!」

 キョーカはツノダを連れていく男たちを見ながらため息をつく。


 キョーカが振り返ると、マーチムは恭しく頭を下げると口を開く。


「これでよろしかったのでしょうか?」


「ええ、構わないわ。あのツノダとかいう男、しばらくは生かしておいて。手札として使えそうだから」


「承知いたしました」

 そう言ってマーチムは部屋を出る。


 静かになった社長室でキョーカは考える。


 さあ、どう出るかしら?

 イレイサー

 ここからが楽しみね。

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