第64話

 ――数日前 帝都ファンドリール本社


 最上階にある社長室ではキョーカが大きな窓から外を眺めていた。


 するとドアをノックする音が聞こえ、秘書のマーチムが入ってきて恭しく頭を下げる。


 キョーカは振り返りながらマーチムを見るが、その表情はどこか疲れているように見えた。


 椅子に座りながらマーチムを見るその表情は少し寂しげにも見える。


 マーチムはキョーカの前に立ち、深々と頭を下げて挨拶をし、キョーカが軽く手を上げて応えると話し始める。


「例のイレイサーたちの件ですが」


「ええ、面倒だけど仕方ないわ。オルサス様のおっしゃる通りにするしかないでしょう」


「はい、それはそうなのですが。このままでは面倒なことになりかねません」


「どういうこと?」


「はい、どうやらイレイサーたちは『アブソス』組織の拠点を次々と壊滅させております」

 それを聞いたキョーカは眉をひそめ、険しい表情に変わる。


「各拠点にはかなりの数の兵が常駐しているはずなのに、どうしてそんなことになったの?」


「それが、詳細は不明なのですが、各拠点が次々に発見され、イレイサーに潰されているようです」

 マーチムは言葉を濁す。


「オルサス様はなんと?」


「帝都での動きはしばらく無くなるそうですので、放置、だそうです」


「そう、わかった。ありがとう」


 キョーカは立ち上がり、少し考えるように窓の外を見ながら話す。


「マーチム、イレイサーを束ねている人物は?」


「はい。プロデューサーのツノダという人物です。ここ数年で名をあげたプロデューサーで帝都で起こった遺物関連事件の八割以上を処理しています。そして、今回の件もおそらく彼が関わっていると思われます」


「ツノダね……」

 キョーカはその名前を呟く。


「それと、これは未確認の情報なのですが、彼は帝国の情報を知る人物である可能性が高いとのことです」


「ふぅん、帝国のねぇ」

 キョーカは口元に手を当てながら目を細める。


 その様子を見たマーチムはキョーカの雰囲気が変わったことを察し、慌てて言葉を続ける。


「で、ですので、このツノダという人物を監視し、帝国上層部との関係を明らかにしていくつもりです」


「そう。いいわ、そのツノダというプロデューサーに直接会うわ、準備をしてちょうだい」


「いや、しかし!」


「大丈夫よ、一度会ってちゃんと話をしておく方がいいと思うの」


「……かしこまりました」


 マーチムは再び深く頭を下げて部屋を出ていく。そして部屋の外で待っていた部下に指示を出し始めた。


(オルサス様は別の聖石を探しに行かれたか。帝都の件は私が動くしかなさそうね。でも、イレイサー、面倒ね。私が対応してしまってもよいのだけれど。どのみちツノダとかいう人物の話次第ね)


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