第54話

 ――やはり、こいつは強い。このままではこちらが不利だな。


 (うん、そうだね。なんとかしないと)


 二人はアイコンタクトで会話をする。


 ――俺が隙を作る。だからお前はやつの後ろに回って、背を向けてくれれば、後は俺が何とかしよう。


「わかった。じゃあ、お願いね」

 そう言ってトーコは一度下がり、オルサスの出方を伺う。


 瞬間、シゲルはいきなりオルサスの足元に向かって走り出し、そのまま背後へと回り込み、オルサスの視界から外れたのを確認し、トーコが再びオルサスへと迫る。


 その時、突然、地面が大きく揺れ動く。

 その振動は激しく、立っているのもやっとなくらいだった。


 トーコは足を踏みしめて堪えようとするが、バランスを崩してしまい、その場に膝をつく。


 ――しまった!?


 その隙を逃すことなく、オルサスはトーコに狙いを定めて、呪文を唱える。


 突如として紫玉の杖が光り輝くと、トーコは手で顔を押さえ、動きが取れなくなる。


 その様子を見たシゲルは刀を構え、一気に間合いを詰める。

 そして、すれ違いざまに一太刀を浴びせる。


 さらにシゲルは振り返ると、もう一撃を加えようと刀を振りかぶるが、突然の爆発が起こる。


 それは凄まじい威力で、シゲルを吹き飛ばし、壁に叩きつける。


 壁に激突した際に、背中を強く打ち付けたシゲルは息ができないほどの痛みを感じる。


 ――ぐふっ!


 口からは血が吐き出され、呼吸もままならない状態だった。


 シゲルが動けなくなっている間に、オルサスはシゲルの元へと近寄り、首元に手を添える。

 すると、シゲルは意識を失い、地面に倒れ伏す。


 ――シゲル!!


 そう思ったトーコの体が光に包まれ、その髪は銀白色に変わり、瞳は青色に輝いていく。


 動きが取れるようになったトーコはすぐに立ち上がり、呪文を唱え始める。

 しかし、それを見たオルサスは杖をかざすと、トーコに向けて衝撃波を放ち、トーコの動きを止める。


「ぐっ! 許しませんよ」

 トーコはその攻撃を受けてよろめくが、それでもなお呪文を唱え続ける。


 その間にも、オルサスは倒れたシゲルに近づき、胸に手を当てる。


 オルサスの杖が紫色に輝き始め、それと同時にシゲルは苦しそうな表情を浮かべ、額には汗が滲む。


「シゲルを離せ!」

 トーコは剣を握りしめ、オルサスの元へと向かう。


 それに気づいたオルサスはシゲルの首に手を当てたまま、トーコの方を見やる。


 その瞬間、トーコの剣が白い閃光を発し、オルサスの体を切り裂き、体は二つに分かれ、床に崩れ落ちた。


(やった!)


 そう思い、トーコは安堵する。


 しかし、その直後、トーコは体に強い衝撃を受け、そのまま吹き飛ばされる。


 ――え?


 何が起こったのかわからないトーコだったが、すぐに自分の体に目を向けると、胸の辺りから真っ赤な鮮血が溢れ出していることに気づく。


 そして、その視線の先にはオルサスの上半身が浮いていた。


 な……んで……


 トーコは薄れゆく意識の中で、目の前の光景を見ていた。

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