第47話
「これは、蟻?!」
現れたのは全長五メートルを超える巨大蟻だ。
その体躯は黒光りしていて、背中にはまるで棘のように小さな突起物が無数にある。
トーコは腰の剣を抜くと戦闘態勢に入る。
その時、巨大蟻の後ろに全身をローブで包んだ人影が現れた。
手に剣や杖を持っている。
その男たちが口を開く。
――そいつらを殺せ!
すると巨大蟻は、その鋭い牙をむき出しにして襲い掛かってきた。
突然現れた男達の命令で巨大蟻はその大きな顎を開きながら突進してくる。
その巨体はまるでトラックが迫ってくるような迫力があり、トーコは一瞬怯んでしまったが、すぐに気を取り直してその突撃を受け止めるべく身構える。
そしてその刹那、トーコは視界の端に動くものを見つけた。
それはアルネラに襲い掛かる巨大蟻だった。
彼女は恐怖の為なのか動けずにいて、ただただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
(まずい!)
その瞬間、シゲルが飛び出していくのが見えた。
シゲルは凄まじい速度で飛び上がると、そのまま空中で体を捻り、強烈な蹴りを放つ。
その一撃は巨大蟻の横腹に炸裂し、その巨体が横方向に吹っ飛び、シゲルは蹴った反動を利用して体勢を整える。
「おい、大丈夫か?」
シゲルはアルネラに声をかけつつ、その前に立ちふさがる。
「あ、ありがとうございます」
アルネラはほっとした表情を浮かべ、シゲルに礼を言う。
シゲルはそれを聞くと振り返らずに答える。
「まだ終わっていないぞ」
シゲルの言葉通り、吹き飛ばされたはずの巨大蟻は起き上がってきた。
しかも、その眼は怒りに満ち溢れているように見える。
「気を付けろ!」
彼はアルネラの前に立って戦っているのだが、その視線は背後にも注がれていた。
どうやらあの男達が何かをしたらしく、アルネラの様子がおかしくなっていく。
そして、そんなアルネラに攻撃を仕掛けようとする巨大蟻を、シゲルが必死になって食い止めているという構図になっている。
シゲルが巨大蟻の攻撃を受けるたび
ガキンッ!
と音がする。
「くそ、硬いな」
と、シゲルがつぶやく
一方、トーコは二人の戦いを見ながらも、その目は冷静に状況を把握しようとしていた。
(シゲルの動きが鈍くなっている?)
シゲルは巨大蟻の攻撃をうまく捌いているように見えるが、よく見るとその動きには精細さが欠けている。
それにさっきから攻撃を受け止めるたびに
ガンッ!
という金属同士がぶつかったような音を立てている。
恐らくそのせいでシゲルの体にダメージがあるのだろう。
なかなか巨大蟻に致命傷を与えられない。
巨体から繰り出される攻撃はどれも強力で、まともに喰らうと危ないだろう。
「このままでは我々が負けてしまいますね」
トーコはそう判断すると、巨大蟻に向かって走り出し、剣を斜に構える。
すると、剣が白く輝き始め、刀身から白い冷気がモヤとなって湧き出る。
「アイスブレード!!」
トーコが叫ぶと同時に剣を一閃すると、巨大蟻の首元を凍らせることに成功した。
しかし、巨大蟻はその氷漬けになった首を強引に振り回し、その首周りの氷を破壊してしまった。
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