第44話
ハルキとニッタが山の中腹まで登ってきた頃、突然木々の間から一人の若い男が現れた。
警戒する様子もなく現れた男はハルキとニッタの前で立ち止まり、ハルキの方へ歩いてきて両手を広げ二人の行く手を遮る。
ニッタは目を細めながら、男の顔をじっと見ている。
「ハルキさん、この人って?」
ニッタはハルキに耳打ちするように言う。
ハルキはニッタの様子に、同じように男の顔を見る。
確かに見覚えがある。
どこで見たのか思い出せないが、確かにどこかで会った事があるような気がする。
「ハルキさん、この人どっかで見たことないっすか?」
「ああ、ああ! おい、お前、領主の息子! デュアンか?!」
ハルキがそう聞くと、男は一瞬驚いた表情を見せたがすぐに笑みを浮かべて
「そうです」
と短く答えた。
ニッタは驚きながらも
「やっぱりそうっすよね、なーんか見たことあるような気がしたんすよ。領主部屋に写真があったっす!」
と呟くとハルキに向かって
「で、なんでこんなとこにいるんっすか?」
と囁いた。
「なんでこんなところにいるんですか? じゃねえよ、締まらねえなあ」
ハルキはニッタの驚いた表情を見ながら苦笑いを浮かべ、それから改めて目の前の男に目を向けデュアンに伝える。
「なんでここにいるのかはだいたい想像はつくけどな。お前、今まで失踪したと見せかけて母親とファンドリールの関係について調べてたんだろ?」
「ええ、そうです。私なりに色々と調べておりました。ファルケには申し訳なかったのですが。あのままでは命まで狙われ、どうしてもいなくなったことにしなければなりませんでした。ここに来てようやく事態が動き始めたようですので、あなた達に会ってお話しを伺おうと思いまして。どうやらあなた方は味方のようですから」
「そうか。まあいいや。とりあえず座れよ」
「いやいや、ハルキさん。どういうことなんっすか?」
ニッタは二人のやりとりを不思議そうな顔をしながら見ていたが、ハルキの指示通りその場に腰掛ける。
「んで、何を聞きたいんだ?」
「では単刀直入にお聞きします。母は無事ですか?」
「ああ、無事、生きてるよ。ああ、ファルケ君も無事だよ」
「そうでしたか、それはよかった。ありがとうございます。本当に良かった。ではあなた方は国家情報保安局の方々ですか?」
「いや、俺たちはイレイサーだ。俺たちは遺体消失の方を頼まれてたんだがな。国家情報保安局はファンドリールの圧力で動けねえんだとさ」
「そ、そんな! では私はどうすれば。しかしこうなったら一人でも」
「おいおい、待て待て。俺らの目的はおそらくお前と同じだ。黒フードをぶっ飛ばしに行くんだろ?」
「ああ! そうでしたか。ではご協力いただけるのですか?」
「ああ、もちろんだ。俺たちも協力させてもらうぜ。俺は黒フード、オルサスを追ってる。遺体消失とファンドリールが関係してるならそれは俺たちの案件だ」
「ありがとうございます! ただ、黒いローブの男の居場所がわからないのです。先ほど納屋に行ってみましたが人が住んでいたような痕跡はありませんでした」
「まあそうだろうなあ」
「「え?」」
「なんでお前まで驚くんだよ」
「いや、だって痕跡がないってどういう事っすか?! 意味が分かんないっすよ」
「あー、お前。見てねえのか。あいつな、持ってたんだよ」
「ん? 何をっすか?」
「杖」
「つえ?」
「ああ、紫色に光る杖な」
「ん? それが何なんっすか?」
ニッタのその言葉に
「黒いローブ、紫に光る杖、オルサス。これでなんか思い出さねえか?」
思い出さねえよな、と言ってハルキは小さくため息をつく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます