領主の異変

第37話

「まあ、ハルキ様。ようこそお越しくださいました。本日も何か当館でお調べに?」


「ああ、ちょっといろいろ聞きまして。あ、そうだ、そろそろ喋り方いつも通りにさせてもらって構わないか? 窮屈でさ」


「あら、それは構いませんけど。それで、今日は何をお知りになりたいんですの?」


「ああ、行方不明事件についてだ」

 ハルキがそう言うと、領主代行であるアルネラは一瞬怪しげな笑みを浮かべ、


「ええ、もちろん、私の知っていることであればお教えいたしますわ。ではこちらへ」

 そう言ってハルキを案内する。


 ハルキはそのまま領主の部屋へ通され、ソファに腰かける。


「さあ、なんでも聞いてちょうだい?」

 アルネラは向かい側に座りそう言った。


「あんたも口調が変わるんだな。ま、いいけど」


「あなたに合わせているのよ。それで? 何かしら? 行方不明事件? 遺体消失ではなくって?」


「ああ、違うな。あ、そうそうちょっと小耳に挟んだんだけどさ、この屋敷で夜な夜なご婦人が居なくなっては朝に戻って来るって事が起こってるみたいなんだけど、なんか知らない?」


「なんの話でしょう? そのようなことは聞いておりませんし起こっているとも思えませんが?」


「あ、そお。じゃあちょっと家人に聞いてみてもいいかな?」


「その必要はありません、領主代行の私がそのような事実はないと申し上げているのです」


「そっか。ま、それもそのうち調べるわ。んじゃあさ、こないだ隣の部屋にいたあの『憑き者』はなんだ?」

 そう言ってアルネラを睨みつける。


 その瞬間、アルネラの表情が変わり、瞳の色が緑に変わる。

 ハルキはその表情の変化を見逃さず、ニヤリとする。


(うーん、やっぱりか。あの時見た感じだと何かが憑依してるのは間違いないと思ってたけど、肝心の遺物が分かんねえなあ。ま、やることはおんなじか)


「よう、いるんだろ! 出て来いよ」


 そう言うと領主の部屋が暗闇に包まれ赤い蜘蛛の糸のようなものが部屋中を廻る。


 すると部屋の片隅に黒い影が現れ、そこから黒いフードの男が現れる。


「ふむ、よく気づいたものだ。お前は一体何者なのだ?」


 男はそう言いながらゆっくりとハルキに近づいてくる。


「ああ、俺? 見りゃ分かんだろ、俺はただの一般人だよ。んで、お前誰?」

 ハルキはそう言って男を見つめ返す。


「ふん、面白い。我が名はオルサス。また会うこともあるだろう。アルネラ、後は任せたぞ」

 そう言ってオルサスと名乗った男は姿を消す。


「あれ、あいつが持ってたのって、あれ? って、おい! 待てよ!」

 追いかけようとすると、目の前に巨大な黒い壁が出現する。


 ハルキが壁の前で躊躇していると、 緑色の目を妖しく輝かせながらアルネラが近づき


「あなたの相手は私がしてあげるわ」

とニヤリと口角を上げる。


「くっ、マジかよ。まさか領主代行が直々に相手をしてくれるとはな」


「ええ、そうよ。でも安心して。すぐに殺してあげるから」


 そう言ってアルネラは微笑んだ。

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