第36話
ハルキはユーシスと別れた後、そのまま領主館の裏手に回り、家人の住居スペースを探る。
(こいつは?)
家人の住居付近には明らかに魔法の痕跡があり、新しい魔法陣の跡も見られた。
これは隠ぺい魔法陣で、この場所を隠すために施されたもののようだった。
そこから足跡追跡用の探知の魔道具を使いながら痕跡を辿っていくと、その先には地下への階段があり、慎重に降りていくと、そこには牢屋のような部屋がいくつか並び、その中の一つから物音が聞こえた。
ハルキが慎重に近づき中の様子をうかがうと、微かにだが、誰かのすすり泣く声が聞こえた。
その牢屋の扉を開けると、中には両手両足に鉄球のついた鎖でつながれた男性が一人座っていた。
「……だ? もう、殺して……」
「おい、お前、大丈夫か?」
と話しかけると男性は驚いたような表情でこちらを見る。
「……あなたは?」
「ああ、俺はイレイサーだ。なんでこんなところに?」
「私は…… ああ、デュアン様! デュアン様はご無事ですか?」
「えーっと、とりあえず状況が分かんねえな。おい、お前、名前は?」
「ファルケと申します。デュアン様に仕えておりました。デュアン様は? デュアン様はご無事でしょうか?!」
「あー! もう、ちょっとうるさい! 静かにしろ! ってファルケ? あー、なるほどな、あんた領主館にいたのか。んで、なんで生きてんだ?」
「ああ、ご無事なのですね。良かった。本当に良かった。あの――」
――――――
「って事はあの領主代行のおばちゃんに騙されてここに?」
「そうなります。私は旅の支度を整え、出立してすぐに野盗に襲われ、気が付くとこの有様で。食事を運んでくれるユーシス様の奥様達に話しかけても何も答えてくれず、もうこのまま死ぬしかないかと思っておりました」
「うーん、そうかあ。って事はユーシス君の奥さんたちは操られてここに食事を運んだりしてたって事かあ。でも何でだろうな、そのままお前を殺しちまった方が楽だろうになあ」
「それは私にも分かりません。ですがおそらく私を生かしておく何かがあるのではないかと思います。でなければこうやって生かしておく事もないでしょうから」
「なるほどな。もしもの時の人質かなあ。まあよし、分かった。とりあえず、えーっと、ファルケ君、お前、このまま捕まってろ」
「え?」
「え? じゃねえよ、今、お前が出て行ったら面倒だろ? だったらもう少し詳細が分かるまでここにいたほうがいいじゃねえか」
「いや、でも」
「でもじゃねえよ、とりあえず食事は運ばれるんだろ? 大丈夫じゃねえか」
「え、いや、まあ、はい」
「よし。んじゃあもう少し待ってな。とりあえず毎日一度は必ずここに立ち寄るし、もうすぐここから出られるからな」
そう言ってハルキは立ち上がり牢屋を出て、しばらく領主館のまわりを調べていくといくつか新しい魔法陣の跡が見つかった。
その跡を追っていくと、どうも領主館の地下へと続いているようだ。
ハルキは領主館の入り口付近に戻り、入り口の警備をしている兵士に話しかけ、領主代行に会いたい旨を伝えると、 あっさり許可が出る。
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