第35話

「ところでユーシス君さ」


「はい、なんでしょう?」


「実質政務を取り仕切ってたって言ってたよね? ファンドリールとの交渉はユーシス君がやってたの?」


「いえ、ファン・ドリールとの折衝は最初期の段階から領主案件とのことでしたのでアルネラ様が領主代行として対応されました。当初奥様はこの交渉はいずれ息子のデュアン様が引継ぐのだと仰っておられましたが」

 と口ごもる。


「なるほどなあ、そっか」


「何か気になる点でもありましたか?」


「いや、こっちの話だよ。気にしないでくれ」


 そんな会話をしながら二人は領主館の近くまで来たため別れそれぞれに領主館を目指すこととする。


 ――――――


 一方、聞き込みを任されたニッタは宿屋で女将さんと話している。


「おかみさん、ちょっといいっすか?」


「あら、どうしたんだい?」


「いや、実はぁ、ちょっと宿に泊まってる人から面白い話を聞かせてもらったんすよ。なんでも、ここの領主さんって、あんまり評判よくないらしいじゃないですかぁ」


「ああ、そうなんだよねえ。まあ、噂だけどね」


「いやいや、噂だって立派な情報ですよ」


「まあ、そうかもねぇ。それがどうしたんだい?」


「いや、昨日の夜、この宿の前で変な格好をした人たちを見たんっすよ。だから、その事を誰かに聞いてみようかなあって思ったんすよ」


「何の話だい? そんな話は聞いたことはないけどね」


「あれ? おかしいっすね。確か見たんすけどねえ」


「ふぅん、まあいいさ。それでその人と領主と何の関係があるんだい?」


「えーっと、その人、こないだ町に出た時に領主館から出てきた人と顔が似てたんっすよ」


「……」

 女将さんは黙り込む。


 ニッタはその様子をみてこれはビンゴかなと思いつつさらに質問を続ける。


 この町では最近失踪事件が多発している事と領主の息子が行方不明になったという話は町でも噂になっている。


「そういえばなんで領兵を出そうと思ったんっすかねえ? 邪魔なんすかねえ?」

 疑問を口にしてみる。


 すると女将はニッタの予想通りの反応を見せてくれた。


「そりゃあ、そうだろうね。あの人達は領主様のお抱えの兵隊なんだろ? だったらそんな変な事をするわけがないじゃないか。あんたたちの方がよっぽどか怪しいよ。協力しろって領主さまに言われたらしなきゃいけないさね」


「へぇ、じゃあここで何かあったとしても見て見ぬふりをするんっすか?」


「それは違うよ! あたしらは言うとおりにしてるだけさ! 余計なことをして領主様に睨まれたりしたくはないだけだよ!」

 ニッタはそれを聞いてニヤリとする。


「そうなんっすね。やはり悪の蝙蝠と地獄Vの悪行に手を貸してるってことっすね?!」


「え?」


「いや、おかみさん、そこは驚くとか、なぜわかったんだ! とか言ってもらわないとっすよ」


「あ、ああ、ごめんよ。で? いったい何が聞きたいんだい?」


「ああ、昨日の夜オレらを襲おうとした奴らは領主の手先って事っすね」


「ああ、まあ領主様からの指示だからね、そうだろうさ」


 しかしあんた変わってるねえ、とあきれたように女将さんが言い、


「あんたに隠し事をしてもこっちがあほらしくなるわ、なんでも聞きな」

 そう言ってニッタを見つめる。


「あー、そういえば聞きたいことがあったす。半年前、ここの領主の息子さんが失踪したって聞いたんっすけど?」


 女将さんは話すことをためらったが、諦めたように話始めた。

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