第29話
ファルケとデュアンがいなくなってからのアルネラは人が変わったようだった。
それまではデュアンが領主になるまでなんとか領の政をこなし、デュアンに引き継ぐための執政であったが、現在では自ら率先して政を取り仕切り、懸案だったファンドリールとの交渉にも積極的に参加した。
「これはキョーカ様。本日はようこそこんな田舎までご足労願いまして申し訳ございません」
「いえ、アルネラ様。あら、アルネラ様、ご様子がお変わりになりました? 随分とすっきりなされているようですけど」
「あら、お分かりになります? 最近、よく眠れるようになりましたの。私の悩みなどたいしたものではなかったと気が付きましたの」
「あら、それは素晴らしいわ。どんな解決法があったのかぜひお聞きしたいですわ」
といい二人で笑い合う。
交渉は順調に進み、夕食も共にすることになる。
夕食時も二人は意気投合し、まるでお互いの事を知っていたのではないかと思うほどであった。
夕食も終わり、領主館の応接室で二人で話す機会を設ける。
「もうお分かりですよね、アルネラ様」
「え? 何のことでしょう?」
「あら、まだお分かりでなかったの? あなたに憑いている「ある」者の事ですよ」
キョーカがそう言うとアルネラの警戒心が上がる。
「あら、そんなに警戒しなくても大丈夫ですわよ。わかっておりますから」
そう言うと指をパチンと鳴らす。
すると何もない空間から黒いモヤの輪が浮かび上がりそこから人の骸骨が姿を現す。
「ひぃっ!」
「あら、何を驚いているの? あなたにも憑いているのでしょう?」
そう言うとキョーカの目が緑色に光りはじめる。
「ああ、ああ、あなたもでしたのね。キョーカ様」
アルネラの目も緑色に光りはじめる。
「ええ、私たちは選ばれたのです」
「選ばれた?」
「そう、選ばれたのですよ、神に」
「ああ、そうだったのですね。あれは神の使い?」
そう言うとアルネラの背中に黒いモヤが広がる。
部屋の空間が暗く赤黒い光の中に包まれ、その世界の中でキョーカとアルネラは自身の中から神が現れるのを感じる。
その後、二人の中に憑きものが戻ると館の応接室では何事もなかったように二人の談笑が続く。
「アルネラ、ファンドリールへの協力、頼みましたよ」
「もちろんです、キョーカ」
「あら、そういえばこの地に邪魔な者が来ているようですわね」
「ああ、あのイレイサーのことでしょうか?」
「ええ、私も前に絡まれまして。本当に迷惑したのです」
「まあキョーカにまで? では私がなんとかしましょう。イレイサーなどどうということはありません」
「ありがとうアルネラ。ただ、あのハルキというイレイサーには気をつけて」
そう言って二人は不敵に笑い合う。
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