第28話
―――現在
領主に会うとなると身分を隠しておくわけにもいかず、ハルキは領主館の門番にイレイサーの証である銀の懐中時計を提示する。
この銀の懐中時計ははるか昔の魔導具の鑑定士協会の名残だそうで、持っている者はどんな公的機関にも立ち入れたそうだが、今日では国家情報保安局の権限の及ぶ範囲への入場と身分を証明するためのものになっている。
門番は確認のため懐中時計を領主館に持ち入り、しばらくして館内部への入館が許可される。
応接室でしばらく待たされたあと、ドアが開くと目つきの鋭い痩せた女性が現れる。
「ようこそおいでくださいました。お名前は?」
「ハルキと申します、領主代理」
と、挨拶をし、礼をとる。
「お楽になさってください、ハルキ様。イレイサーとお会いするのは初めてなものですから。それで、今日はどうされたのですか?」
アルネラが尋ねながら着席を促すとお茶の手配をメイドに行う。
「ええ、実はこのペイドルの町に遺物による異変が起こっているのではないかとこの度国家情報保安局から依頼がありまして」
と言い、アルネラの反応を見る。
「あら、そのような妄言を誰が情報保安局に伝えたのかしら? そんな物があればすぐに帝都に報告申し上げますわ」
「そうなんですよねえ。私もそう思ってはいるんですが、上が納得してくれないんですよ。なので仕方なくこちらに伺ったんですよ。ほんと、困ったものです。あ、そういえばアルネラ領主代行はお加減がすぐれないと伺いましたが、よろしいので?」
「ええ、もうすっかり。何かと気苦労が多いものですからそんな噂が立ってしまい領民にも心配をかけてしまっています」
と俯きながら答えた。
「ああ、心労ね。そういえばペイドルではこの度ファンドリール開発の誘致に成功されたとか、さぞご苦労も多かったでしょう」
「まあ、ありがとうございます。やっとこの領も豊かになれると私自身喜んでおりますの。もちろん、領民の生活を一番に考えての事ですわ、ハルキ様」
しばらくやり取りを続けるがアルネラに変わった様子はない。
ハルキはもう一つの話題に踏み込む。
「そうですか、それは領民も喜ぶでしょう。ああ、そういえばこちらにはもうすぐ領主になられる息子さんがいらっしゃるとか。ぜひご挨拶を申し上げたいのですが?」
「まあ。これは残念だわ。息子デュアンは今出かけておりまして」
「そうなんですか、それは残念ですねえ。まあしばらく滞在するつもりですのでいずれご挨拶もさせていただけるでしょう」
「ハルキ様、どの程度滞在なさるの?」
「そうですねえ、上が納得できる資料を作成しなければなりませんので、一週間程度、いやあ事によっては一か月程度滞在させていただくことになるかもしれません。あ、アルネラ領主代行、申し訳ないのですがその間、こちらの館と公的機関への出入りについて許可を頂きたいのですが」
そう言ってアルネラに許可を求める。
「もちろんですわ、ハルキ様。心ゆくまでお好きな所をお調べになってください。後ほど私のサイン入りの証明書を持って行かせますわ、宿はヴィルジーニアの宿屋ですわよね?」
「ありがとうございます。では、本日はこのくらいで。また、明日。一応いろいろ見せていただかなければなので、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
と言って領主館を出る。
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