第27話

 その日、アルネラはいつになくすっきりとした目覚めを迎えた。


 昨日までの悪夢から解放され、自らの為すべき事が分かった。


 そう、簡単な事だった。


 その日の朝食を終え、デュアンが執務室に向かった後、自室にファルケを呼び出した。


「ファルケ、よくお聞きなさい」

「はい、奥様」


「あなたは今までデュアンの庇護の元過ごしてきました。私は気に入りませんでしたが。まあそれはあなたも分かっておりましたね」


「はい、承知しております。し、しかし奥様!」


「ファルケ。これまでの事は良いのです」

 きっぱりと言う。


「え?」


「私が間違っておりました。あなたがいるとデュアンがだめになってしまうのではないかと思い違いをしておりました。そうではないのですよね、ファルケ」


「もちろんでございます! 私はデュアン、いえデュアン様により良き領主になっていただきたく思っております!」


「ええ、ええ。そうですね。そこでです。あなたにお願いがあるのです。東のグラテラの町を越えた先にチルター山があります。そこに当家に伝わる泉があります。その泉、セロッツの泉から湧き出た水を持ってきてもらいたいのです。これを領主になる日にあなたからデュアンに贈ってもらいたいのです」


「それは……」


「できないのですか? デュアンのためにあなたにお願いをしているのですが、そうですか」


「いえ、行きます。奥様、私に行かせてください」


「まあ、ありがとうファルケ。ではすぐに出立して頂戴、急いだほうがいいわ」


「……はい、奥様」

 こうしてファルケは急ぎ準備を整え出立する。


 ――――――


 昼になりそれを聞いたデュアンは激怒した。


「母様、なんということをしてくれたのです!」


「まあ、なんの事かしら?」


「ファルケの事です! どうして一人で行かせたのです!」


「あの子はここにいてはいけないの。だから行かせたのよ」


「何という事を言うのです。今からファルケを追いかけます!」


「今から行って間に合うかしら? デュアン、あなたにはあなたのやるべき事があるでしょう? それをないがしろにして追いかけるというなら領主になる事を諦めなさい」


「こんな事が許されるはずはありません。母様、あなたと言う人を私は許さない! 領主の地位など私は望みません、どうぞこのままあなたが領主になればいい。一体どうしたというのです、母様」


 そう言うとファルケを追いかけるため自室に戻り準備を始める。


「そう、領主の地位など望まないの? わかったわデュアン」


 アルネラはデュアンにサインをさせるために必要な書類を準備させる。



「ああ、デュアン、私はあなたを愛しているのよ。どうして私の愛が伝わらないのかしら? わからない子。仕方のない子ね、いいわ。望み通り追いかけて行きなさい」



 そう言い放ったアルネラの目は怪しく緑色に光っていた。

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