新たな謎
第33話
「来ませんでしたねえ、領主の手先」
「なんだよ、手先って」
「だってハルキさん、今夜奴らが襲ってくる~、とかいうから寝られなかったんすよ」
「うるせえなあ、そりゃ外れることもあるよ。仕方ないだろ、あのタイミングだとだいたい来るんだよ、手先」
「まさかイッコさんたちが来るとは思わなかったっすねえ」
「ほんとなあ、あいつら邪魔ばっかりすんだもんなあ。なんかこうな、領主の部下の闇の組織みたいなのが襲ってくる予定だったんだよ、それなのにイッコとホリさんてなあ」
「闇の組織っすか! 名前はきっと『毒蝙蝠と地獄の軍団』みたいなやつっすよね?」
「なんの組織だよ、それ。ものすごく悪っぽいけどな」
「ね、そうっすよねえ。やっぱりハルキさんはわかってくれたっす」
「え? 他の人にも言ったの?」
「当り前じゃないっすか、今までどれだけ悪の組織と戦ってきたと思ってんすか」
「いや、まあいいけどな。あんまり人には言わないほうがいいかもな」
「そうっすかねえ?」
宿で朝食をとりながら二人が話していると
ドアをノックする音が聞こえる。
二人は顔を見合わせる。
このタイミングで来るとしたらまたイッコとホリだろうか?
そう思いながら扉を開けるとそこには一人の若い男が立っていた。
年の頃は20代前半といったところで、髪は短く切りそろえられ、肌は白く瞳は黒かった。
男は頭を下げるとこの領の者ですと言い、あなた方に依頼があって参りました、と告げる。
ハルキは男を部屋に招き入れて椅子を勧めると自分も座り尋ねる。
すると、その前にまず自己紹介をさせてください、と前置きをして名乗る。
「私はユーシスといいます」
「んで? そのユーシス君は我々に何の用かね?」
「はい、実は」
と彼は言い淀む。
「ん? どうしたのかな? 何か言いにくいことでもあるのか?」
とハルキが言うと
「いえ、そういうわけではないんですけども。ええと、信じてもらえないかもしれないというか」
とますます言い淀む。
「なんだよ? はっきりしねえなあ。大丈夫、ユーシス君の顔は領主館で見かけたよ」
と言うと、少し驚いた様子で
「ああ、もうお分かりなんですね。あの、実はこのペイドルは現在、領主不在で代理はアルネラ様が務めていますが、実質統治業務を任されているのが私なのです」
「ほほう、じゃあ君がこの領地のナンバーツーということか。すごいな、その若さで。それで、どうしてそんなことを俺達に言ったの?」
「はい、それが、実は最近このペイドルでおかしなことが起こっているんです」
「遺体消失っすよね? 大丈夫っすよ、俺たちはその調査も兼ねてるんで」
とニッタが口を挟む。
「いえ、それだけではないのです」
「ん? それだけではない? どんなことが?」
「えっと、それは、あの、信じられないことかも知れませんが、ここのところ夜になると、突然屋敷内の人間が消えてしまうんです」
「生きた人間が?」
「はい、私が気付いたのは今から二週間ほど前のことです。朝起きるとベッドに寝ているはずの妻の姿が見えなかったのです。最初はどこかに行っているのかと思っていましたが、それからも毎晩のように妻の姿が見えなくなるのです。そこでようやくおかしいと思い始めたのです」
「いやあ、そりゃあ夜抜け出すって事は、ねえハルキさん。んであれっすよ、ハルキさんなんて夜自分の部屋にいる事なんてないんすから。どっか行ってお酒飲んでるとか誰かと会ってるとか、ねえ?」
「お前はうるさいよ、少し黙っとけニッタ」
「へ――――い」
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