第32話

 ―――翌日


「本当によろしいのですか?」

 スキンヘッドのホリが尋ねる。


「いいのよ、ハルキさんが勝手に動いてるんですから。私たちは止めたじゃないですか」


「煽ってましたよ?」


「あら、そうかしら? 私は誠心誠意止めましたよ。ここから先、ハルキさんがどう動くのか楽しみだけれど。さて、一度ファンドリールに行ってキョーカ社長に挨拶をしておかなければならないですね。そこで我々国家情報保安局に圧力をかけた人物でも教えてくれるといいのですが、教えてくれないですよねえ」

 そう言ってファンドリールに向け歩き始める。


「それにしても宿が一軒しかないってどういう事かしら?」


「そりゃあこんな陸の孤島に誰も来やしないでしょうよ」


「今までならね。だけどこれから開発が始まろうとしている段階でまだどこも動き始めていないのは少し不自然な気がするけど、ま、気のせいね」

 そう言って歩き続ける。


 ――――――


 ファンドリールが買い取った屋敷でイッコとホリがキョーカと面談を行う。


「ようこそ、国家情報保安局の方々が何の御用かしら?」


「これはキョーカ社長、わざわざありがとうございます。いえ、こちらに用があったものですから寄らせていただいたんですの」


「あら、こんな陸の孤島に何の用だったのかしら?」


「はい、どうにも人に懐かない犬がこの陸の孤島に迷い込んでるみたいだったので躾に来たんですよ。でも社長、そんな陸の孤島になんでまたファンドリールが乗り込んで来たんです?」

 イッコがきつく言う。


「あら、それは企業秘密ですけれど。まあ、企業として利があり益があるならこの帝国中、どこにでも出向きますわ。何か国家情報保安局のお気に触るようなことでもあったのかしら?」

 キョーカは涼しい顔で言う。


「いいえ、一介の国家公務員のやっかみですよ。大企業ともなると考えることが我々庶民の想像もつかないんだろうなあって」


「ふふふ。その通りで何も言い返せませんわ。あなた、お名前は?」


「イッコと申します。以後、お見知りおきを」


「残念だけど利益にならない人の名前は覚えないことにしているの。聞いておいてごめんなさいね。ふふふふふふふ」


「さて、それではご挨拶と報告も済みましたのでこれでお暇させていただきますね」


「ええ、そうして頂戴」


「あ、キョーカ社長。一つよろしいですか?」

「なにかしら?」


「一応、躾はしておきましたけど、あの犬はなかなかいう事を聞いてくれませんの。それをお伝えしておきますね」


「大丈夫よ、私も躾は得意な方だから」

 と言ってニヤリと笑う。


「では」

 そう言ってイッコは踵を返し、ファンドリールを出る。


「本当にあれでよかったのですか?」


「十分よ。あとはハルキさんがどこまで暴れるか。いやあ、ほんっと。あのくそ女、見てらっしゃい!」


 そう言ってイッコとホリはこの町から離れる。

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