第18話

「で? お前、何やったの?」


 事務所でイレイサーたちのプロデューサーを務めるツノダが頭を抱えている。


「何やったの、じゃないでしょ。あんたが行けって言ったんでしょうよ。んで、行ったら騙されたんだよ? ほんっとひどい目にあったんすから」


「俺はファンドリールの社長のとこに書類を受け取りに行かせただけだよ? なんで公園が爆破されてんだよ!?」


「仕方ないっすよ。あのキョーカって社長が『憑き者ありの遺物』を渡してきたんすから」


「だけどお前、公園爆破しなくてもいいんじゃないか? これまたどう説明すんだよ、上に」


「知らないっすよ、俺に言わないでくださいよ。まさかあんなデカブツが現れるなんて思ってなかったすよ」


「あー、お前、あれか。キョーカって社長、美人らしいじゃん。ほんでお前、色気出して、ウーッ! ってなって、あれか」


「なんだよ、ウーッ! てどれだよ。んなわけないでしょ、ツノダさんじゃないんだから。んで? あれ、なんだったんすか?」


「ん? ああ、あの古びた紙切れな、あれ。アンドウに頼んで鑑定してもらったんだけどな、あの紙、今から千年以上前の帝国の物で何かしらの封印魔法の痕跡があったってさ。まあ結局、何に使われた物なのかはわからなかったけどな」


「ふーん」


「ふーん、って、お前。ハルキ、お前が聞いてきたんだぞ!」


 チョビヒゲを揺らしながら赤い顔をしている。


「ま、イレイス出来てたんならいいじゃないすか。ていうか、俺、そのアンドウって人知らないすよ」


「え? そうなの? お前、一回挨拶に行っといたほうがいいわ、てか行け。この事務所でお前が一番お世話になってるんだよ、Dr.アンドウに。お前が壊した『遺物』の修復してくれてんだから。あ、そうだ。今度アンドウと一緒に鍋するからさ、ハルキ、お前も来い! 鍋パーティー!」


「なんで鍋パの話になってんだよ。行かないよ、ほんとあんたまじめに仕事したほうがいいよ」


「してるよ? 俺はいつでも」


 不思議そうな顔でツノダが言うと、そこにニッタが戻ってくる。


「ハルキさん、ハルキさんハルキさん!」


「なんだよ、だから見つめながら何回も名前呼ぶなって!」


「大変なんっすよ、なんかどっかの町で死体が消えてるんですって!」


「なんだそりゃ? またお前はそんな噂話を聞きつけやがって、なんなんだよ、それ。誰にそんな噂を聞くんだよ。変な噂聞きつけて、んでお前こないだはツリーでえらい目にあったろうが。いいかげんにしろよ」


「いや、それがあ。って、セントレイスデイは面白かったじゃないっすか。イッコさんにプレゼントも貰えたし。ってかハルキさん、あのプレゼントの短剣で骸骨ぶっ刺せってひどいっすよ。あれは大切な物なんっすからね、あれで憑き者倒せって言うのはちょっとどうかと思うんすよ」


「なんだよ、話が迷子になってるぞ。何の話だ?」


「ああ、そうっす! 遺体消失事件っす!」


「事件化すんなよ、噂話だろ?」


「それがマジらしいんすよ。なんでも、もう数件起こってるんですって。その町は大騒ぎでしょうねえ」


 そう言ってニッタは黙り込み、ハルキと顔を見合わせるとツノダが咳払いをして口を開く。


 それはいつもの軽い口調ではなく重々しい声だった。


「ハルキ。これな、もうすでに帝都でも噂になってるけどな」

「ん? 何が?」


「遺体消失事件」

「ああ」


「これ、遺体消失事件な。このままじゃ終わらないだろ?」

「なんで?」


「今も消え続けてるんだよ? どうすんだよ、うちの町内会でも夜間戸締りは厳重に、とか話が出てたよ」


「なに言ってんの? ツノダさん。遺体が消えるんだろ? なんで生きてるのに戸締り厳重に、とかなってんだよ」


「いや、だからさ、死体だけじゃないんだよ! 噂では死体の次は生きた人間もって話なんだよ!」


「ここどこ? あんた誰? 仕事何?」


「ん? 何って、ここは帝都で私はツノダでプロデューサーですが?」


「それこそそんな事件起こったら国家情報保安局案件だろうが。局になんか言われたんすか?!」


「いいや、別に何も? ただなあ……」


「じゃ考えろよ! そんな噂は嘘っぱちなんだろうよ」


「え? そうなの?」


 一度そういったが、ハルキに向かって諭すように言ったのだ。


「ただ実はな、ハルキ。国家情報保安局から依頼が来てるんだよ。その依頼がな、ちょうどニッタが話してる町、ペイドルの町なんだ」


 ハルキは舌打ちする。


「では依頼だ。ハルキとニッタ。ペイドルの町で『遺物』の有無と、必要であればイレイスを行ってくれ!」

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