第19話
―――半年前
薄い紫色の光が暗い部屋の中をチラチラと照らしている。
痩せこけた男が背を丸め、両手に抱えた杖を窪んだ目で必死に眺め、何やらブツブツとつぶやいていた。
その杖は何かの木か骨で作られたようで、ごつごつとしているわりに重さはそれほどなさそうである。
そして杖が作らてからかなりの年数を経ているようで全体的にくすんだ色で灰色や白、茶色、黒といった一言では言い表せない色をしている。
杖の上端には部屋を照らす紫色の玉が付けられ妖しく輝き、下端に向け細くなっている。
「ああ、やっと手に入った。これこそ! これこそ私たちが求めていた物だ!」
興奮する男は杖を頭上に掲げ、拝むように杖を持ち上げる。
その男の目には涙さえ浮かんでいた。
そして、感極まったのか勢いよく立ち上がり再び叫び声をあげる。
「汝の身は我が下に、汝が命運は我が手に。聖石の寄るべに従い、この意この理に従え! さあ今こそ蘇れ! 私に力を!」
男が叫び終えると杖の光が上端の紫色の玉に引き戻されていき収束していく。
完全に光が玉の中に収まると一瞬の間を置き、今度は紫色の光が玉の外に向け強く輝き始める。
杖の光に映し出された男の影から無数の黒い腕が伸び、男の体を掴み倒し、影の中に引きずり込もうとする腕や男に絡みつく腕が男を覆い尽くしていく。
苦しみ始めた男の顔は痛みに歪みながらも笑みを浮かべているがその顔も黒い腕に覆い尽くされる。
しばらくすると腕は再び影の中へと消えていく。
男はそのままその場に倒れ込んでいる。
倒れて動かない男の周りには次第に黒い霧のようなものが集まりだし徐々に人のような形になり、やがて黒いローブを着た男の姿になった。
男はゆっくりと立ち上がるとニヤリと笑い呟く。
「ようやくだ……」
そうつぶやくと、先程の杖に向け腕を伸ばす。
杖が引き寄せられるように飛び、男の手に吸い付くようにピタリと手におさまる。
男が杖を持ち何かを呟くと杖から紫色の光が二つ現れ、その男の周りをくるくると回り始める。
ニヤリ、とすると男はその場から煙のように姿を消した。
――――――
【File00】 オーフィア帝国歴1235(聖王歴2022)年 6月
半年前、グネトラス考古学博物館の二千年前のミイラが動くという触れ込みで観光客がどっと押し寄せたが、今ではそんな流行も廃れホテルやレストラン、図書館、映画館、ショッピングモールなどの観光施設の一つとして博物館周辺もすっかり落ち着きを取り戻している。
だが、秘匿扱いである国家情報保安局の報告によると、あの事件の主犯と思われるカイトウ館長・ハイアット学芸員は現在も行方不明である。
当時、カイトウ館長が主犯と思われていたが、捜査が進む中でミイラと共に発見されたとされる副葬品の杖が紛失していることが判明(その杖はカタデリー信仰の一神、タシュマを表している物とされているが詳細は不明)したのである。
現場の状況からカイトウ館長はミイラに取り込まれ、ミイラと共に国家情報保安局職員に焼かれ、命を落としたものと考えられるが、イレイサー・国家情報保安局員合同での捜査時にもハイアットの存在は確認されなかった。
グネトラス考古学博物館を復旧させていく過程で、学芸員のハイアットが行方不明になっており、事件の前に館長室で二人が何か話していたことを他の学芸員が目撃していたことが分かった。
事件当日、ハイアットが博物館に入館した記録はあるが退出した記録がなく、ハイアットもカイトウ館長同様にミイラと共に焼かれたものとして処理されている。
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