ペイドルの町

第20話

「しっかしなんもないっすねえ」


 魔道車を降りたニッタがハルキに言う。


 今回の指令は国家情報保安局からのものでペイドルの町で起こる遺体消失事件に『遺物』が関係しているかどうかの捜査である。


「なんで俺たちがこんな田舎に来なきゃいけねえんだ? 遺物の話なんて出てねえんだろ?」


「そうなんすよねえ、ハルキさんにはなんだかんだ偉そうなこと言ってましたけど、ツノダさん、あの後、遺物がないのに何でうちが出ばるんだあ、って言ってましたからねえ」


「なんだよ、ツノダさんもそう思ってんのかよ」


 元々イレイサーの仕事は『遺物』の中に稀にある憑いた「ある」モノを「ない」モノにイレイスする事だ。遺物もないのにイレイサーが呼ばれることはないはずである。


「いやな予感しかしねえなあ」

 ハルキはそう言うと魔道車を降りる。


「んで? まずはどうすんだ?」


「そうっすねえ、とりあえず出張客を装って宿に入って情報集めるしかないっすよねえ」

 と答えながら荷物を降ろしていく。


「こんな所に出張もくそもねえだろ、ここ、陸の孤島って呼ばれてんだろ?」


「いや、それがあ、最近は人が増えてるみたいなんすよ。あれが近々ここに来るらしいんっすよ」


「何が来るんだよ?」


「ファンドリールっすよお。なんか、ここの領主の肝いりで誘致したって話なんすけどね。ファンドリールって今、帝国だけじゃなく、大陸全土に手を広げてるみたいっすねえ。いやあ、すごいっすねえ」


「は? なんでこんなとこにファンドリールが誘致されてくるんだ? こんなとこに会社作っても採算なんか取れねえだろうに。って、ちょっと待て。ってことはキョーカ・クチガも来るのか?」


「なんでも去年くらいから交渉に入ってて、それがどうやら決まったらしいんすよ。で、なんでだかここ、ペイドルの町に誘致されることが決まったんですって。ここにそんな必要な鉱物資源なんてあるんっすかねえ? あ、キョーカ社長、今月、契約の締結で今、来てるらしいっすよ」


「ほーう、そいつはなかなか面白い話じゃねえか。やる気になって来たぞ」

 ハルキが悪い顔をして言う。


「あー! ハルキさん、キョーカさんにしてやられたのまだ根に持ってるんすか? ハルキさん、ほんっとそういうとこありますよね。だから彼女もできずにもうすぐ四十にな……」

 ニッタの頭をうるせえよと言いながら小突くと、ほら行くぞと声を掛け宿に入る。



 この町に宿屋は一件、『ヴィルジーニアの宿屋』しかなく、とても立派とは言えない造りで女将さんもたいそう不愛想だったが、こちらとしてはその方が都合がよかった。


「で、同じ部屋でいいのかい?」

「いや、二部屋頼む」


「食事は?」

「基本、朝晩で頼む」


「あいよ」

「なんでヴィルジーニアの宿屋って名前なんだ?」


「さあねえ、先々代が始めた宿屋でね、その時つけた名前で由来なんか知りゃしないよ」

 こんな感じでとても客商売とは思えない対応だった。


 一旦部屋に荷物を置き、ハルキの部屋に集合し、今後の予定を詰めていく。


 ニッタは遺体消失、ハルキは遺物関連とファンドリールについて調べることとし、基本、毎晩夕食時にお互いに報告をすることとした。


「んじゃあ、お前はまず町を回って聞き込みな。実際に遺体が消失した家族から話を聞いてこい」


「はいっす。ハルキさんはどうすんっすか?」


「俺はお前あれだよ、いろいろとな」


「ほんと仕方ないっすねえ。まあそこがハルキさんなんすけどねえ」


「うるせえよ。なんか匂うんだよ。だがファンドリールが絡んでるってことは遺体消失もずいぶん怪しくなってきやがったな、完全にガセだと思ってたんだけど、こりゃあもしかするぞ」


 一通り話し終わるとニッタは早速町に出掛けていき、ハルキも町の探索に行くため、身支度を始め独り言ちる。


「ファンドリールがこの土地を狙っている? んで、あの赤目の黒骸骨。そしてペイドルの遺体消失。ふん、面白いじゃねえか。さあてと、どうしよ?」

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