第21話
やはりこの町にはあまり観光客はいないようで、町を行き交う人たちのほとんどが顔見知りのようだ。
町の様子を広場で観察し終えたハルキは一軒の道具屋に入り、店主に話しかけると道具屋の親父は気さくに答えてくれた。
「おや珍しい。町の人間じゃない客なんて何年ぶりだぁ」
なんでもここには最近、魔道具が新しく導入されたらしく、それで少し賑わっているとのことだった。
そしてその新しい魔道具はファンドリールが制作しているものらしい。
「へえ、こいつは魔道具なんだ。これってどんな魔道具なんだ?」
「ああ、それかあ。そりゃあ最近入った物でなぁ、今までここらにゃあ無かった代物だなぁ」
「へー、そうなんだ。んだけど、なんの道具かわかんねえや。なんなの、これ?」
「ああ、こいつは農機具なんだぁ。こいつはファンドリールが開発した機構や魔石が使われているんだぁ」
「ファンドリールの道具なの? 帝都でも見たこたあねえなあ。すげえな」
ハルキはあえて大げさに驚いた様子でこたえる。
「こいつは魔石の消費魔力が抑えられててなぁ、今までの道具とは効率が格段に違うんだとさぁ」
と自慢げに言う。
「なるほどなあ。ってことは、魔石を度々買わなくてもよくなるってことか?」
「おう、そうだなぁ。だが、まあ初期費用が高くつくからなぁ、ここいらじゃその初期費用を払える奴が少ないから、まあこれからどうするのかは領主さまがお決めになるんだろうさぁ」
と神妙に答える。
「ん? 領主さま? 税金とか補助金とか出そうなのか?」
「ああ、まあそうなるなぁ。だけど実はなぁ、この町の領主様なんだがよぉ。ほれ、十六年前に先代が亡くなってなぁ。それからは奥様のアルネラ様が領主代行を務めておられてなぁ。今年いよいよご子息のデュアン様が正式に領主さまになるそうなんだがぁ、まあ、んだからまだどうなるかはわからんなぁ」
「へー、んでもまあ、そいつはめでたいじゃないか。ん? 何か問題でもあんのか?」
「それが大ありよぉ。実はなぁ、そのご子息のデュアン様の行方がわからなくなっちまってんのさぁ」
「なんだとっ? そりゃ本当か、親父!」
「なんだぁ、でかい声出しやがってぇ。びっくりするじゃねえかぁ」
「ああ、すまんすまん。あんまり驚いたんでな。んで、本当なのか? その息子が行方不明ってのは」
「ああ、町の者で知らない奴あいないなぁ」
ハルキは頭の中で整理しながら、質問を続ける。
この町では十六年前、先代領主が亡くなった後、奥方のアルネラが領主代行を務めていた。
一人息子であるデュアンは今年成人を迎え、正式に領主に就任するはずだったのだが、就任直前に行方知れずになってしまったというのだ。
ただ、気になるのはその前にデュアンに仕えていたファルケと言う青年がこの領を追放されているという事も起こっているらしい。
息子の失踪という事実に領主夫人のアルネラはひどく心を痛め、それ以来体調を崩しているとの事だった。
その話を聞き終わり、ハルキは考える。
(こりゃあどういうこった? 遺体消失だけじゃなく、領主の息子の失踪もあんのかよ。それに町の魔道具の導入だと? 領主夫人は体調不良だって言ってるがファンドリールの誘致は決定した。それぞれが関係しているのか、それともしていないのか)
そんなことを考えながら店主に礼を言い店を出て、宿に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます