第22話
一方、ニッタは最初に遺体が消失したとされる少女の家を訪ねていた。
「あのお、勝手に入っちゃって申し訳ないっすー、ちょっとお伺いしたいことがあってー」
ニッタはそう言うと家に入る。
中には夫婦と思われる男女と初老の祖父母が暗い顔をして無言で食事を摂ったり家事をしている。
「誰だ、あんた?」
若い男が座って食事をしながら尋ねる。
「ああ、申し訳ないっす。何回か扉のガッコンガッコンのやつを鳴らしたんすけど、どなたも出られなかったので入っちゃいました」
男性二人はニッタを睨みつけ、女性二人は目も合わさず家事を続ける。
「で? あんた誰だ? なんの用だ。うちは見ての通り、今は客を迎え入れるような余裕はないぞ」
イラついた顔で若い男がまくし立てる。
「あ、どうも、ニッタです。イレイサーっす」
そう言うとイレイサーの証である銀の懐中時計を見せる。
「イレイサー?! 何の用だ、お前らなんかに用はないぞ」
今度は初老の男性が強い口調で話しかける。
「こんな時に本当に申し訳ないっす。だけど、これがもし遺物に関係するなら調べないといけないんっす。お話、聞かせてもらえないっすか?」
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「……そうなんすねえ。ほんと、お辛いところ申し訳ないっす」
言葉はあれだが気持ちは伝わったらしく
「いえ、気にしないでください。私たちも、いつまでもくよくよしていても仕方ありませんし。ところでニッタさんはこの村の方ではないようですが、どちらから来られたんですか?」
「あっ、自分は、帝都からっす」
「まあ、帝都から! どうして娘の遺体が無くなってしまった事を?」
「はい、実は自分、この村で起こった事を調査してるんす。初めて来る土地なもんで、不勉強な点があるかも知れないんっすが、そこは勘弁してください。で、その調査の一環で、この村で起きた事件を調べてるんすよ」
「まあ、そうでしたか」
「ええっと、それで遺体が無くなった日なんっすけど」
ニッタが尋ねようとすると、母親が答える。
「ええ、娘の葬儀の日の朝でした」
「ありがとうございます。で、その時の状況について詳しく聞かせてほしいんっす」
「はい、と言っても、朝起きたら娘の部屋の扉が開いていて、気が付いた時には寝かせていたベッドからいなくなってたんです。流行り病で亡くしましたからもう本当に悲しくて、それまでずっと側についていたんです。でも、葬儀屋さんがきて棺の準備などをするために少し目を離した隙に。皆、慌てて探したのですが、結局、娘は見つかりませんでした」
と涙をこぼした。
「そうなんすねえ、分かりました。ご協力本当に感謝します。また何か思い出された事があったら、こちらまで連絡をお願いします」
ニッタはそう言って、母親に連絡先の書いた紙を渡しておいた。
そうして母親の家を出たあと、次の家に寄ったが最初、あまり乗り気ではなかったのだが、ニッタが事情を説明すると応じてくれた。
そこで聞いた話は
「はい、そうですね。確かにあの時亡くなったのはうちの母です。ええ、はい。そうです。葬儀屋の手配とか色々ありまして、私がしばらく目を離したすきに遺体がなくなったんです。あの時は本当に生き返ったのかと思いました。その日の夜中まで家のどこを探しても見当たらなくて、近所の者総出で探し回ったんですよ。でも結局見つからなかったんです。本当に何がなんだか分からないんです。遺体を盗むなんてそもそも尋常ではないし、一体どうやって忍び込んだのか。どうやって運び出したのかわからないんです。家の鍵は開いていたんですけど、亡くなった母を一人にはさせられませんので、家には常に誰かがいましたし」
と、いったものだった。
ニッタはその話をメモ帳に書き留めると最後に、お母さんの遺体がなくなったのと同じ日、この村を訪れた人物はいないかと質問した。
すると息子はああ、そういえばと言い、遺体が無くなる数日前に一人の旅人が村に立ち寄っていたらしいという。
そしてそれは、おそらく母が亡くなる前日に訪れた旅商人ではないかと言った。
なんでもその男は黒いローブを着て、フードで顔を隠していたそうだ。
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