第4話 二〇一〇年以降

 前回、まずは僕と小説との関係。コンテストと客観的に対峙するある種の仙人のような気質、考え方になりつつあると言った。僕のその続きである。作品としては『時神と暦人』のセカンドシーズンの時期で、内容は角川栄華かどかわえいか夏見粟斗なつみあわとの活躍。それが前回までの範囲。栄華が暦人御師として、「時の勘解由使かげゆし」から御師としての赴任状をもらうまでの過程を描いた。


 次の『時神と暦人』のサードシーズン(媒体によっては4・フォースシーズンになっています)は「登場人物の年齢を媒体読者層に少しでも内容を近づけよう」、そんな気分でスタートしていたと思う。原稿用紙や出力用紙からネットでのクラウド作品の保存という形態に移行した小説書きの媒体。作品も、書き手、読み手の年代も十代、二十代が主流なので、少し若者にも合うようなキャラクターの設定を考えようと思った。ヒロイン朱藤富久あかふじふくの誕生だ。そういう経緯なので、ここは僕の嗜好ではない。それに僕が合わせられるのは若いと言っても二十代が限界である。十代の気持ちは今となっては難しい。青春像や思春期の葛藤を描けるほど感性が研ぎ澄まされてはいないのだ。ある意味遠い昔過ぎて、その感性は錆びついてしまった。


 それに少々待っていれば、四十代や五十代の読者も時間とともにネット小説に増えると見越していた。他のデジタルコンテンツがそうであったように。最近の統計やアンケートなどを見ると、実際今はそういう方の閲覧もずいぶんと増えているようだ。デジタルの新媒体、真っ先に飛びつくのは若者だが、一度浸透してしまえば、レスポンスの遅い年配者は逆に固定客になりやすいと僕は踏んでいた。実際に、最近はそういう方々が増えているのも嬉しい。そして僕もその一人というわけだ。


 それでもこの当時はまだ若者向けが多い(今も主流はそうだ)。僕も久々に元気な文章を書きたかった。二十代のオッチョコチョイ女子をメインとすること。若さで動ける、自己責任崩壊の天真爛漫な現代っ子を描けるだけの蓄えはあったようだ。朱藤富久はもちろんあの銘菓が隠れている名前だ。おかげ横丁にあるあのあんころ餅だ。彼氏の名前が神代持彦しんだいもちひこ。これまた内宮のバス乗り場の前で大きな看板を見かける美味しそうな文字の名前である。蓬の香りがしてきそうだ(笑)。ある意味、ワンクッションおいた伊勢神宮やお伊勢参りへのオマージュだ。


 でも若く経験不足で、おぼつかない彼女のサポート役として、栄華と夏見は随時といってもいいくらい登場させる。これが第三シーズンの骨子である。舞台は伊勢。ようやく僕の描きたかった伊勢地方へと物語は動くことになる。「土の御厨」。それが富久の家の御師の職であった。


 また、ここではサブヒロインとして、勘解由小路歌恋かげゆこうじかれんを登場させる。教会をゲートに使うカレンダーガールの中でも、海外で術を覚えた「時渡りの魔法使い」が時魔女である。榛谷御厨はんがやのみくりやの御師である三井みずほの幼なじみという設定で番外編に登場していた彼女を本編にも使うことにした。理由は面白いから(笑)。


 僕自身は、若い感性ばかりを常時描いていると穏やかな優しい情景を描きたくなる。気分転換のためと、楽しくはあるが実年齢と差があるものは、やはり一定の労力が生じるためだった。熟考してみると、あっちもこっちも両方とも僕の創作意欲の本質のようだと気付いた。そこでスラップスティック風の本編物語とは別に、大人の心温まるSF物語を小話風に描きたかったので、葛西御厨の暦人御師、青砥一色あおといしき零香れいか夫妻のもとで、穏やかで優しい感動的なミラクルが起きるスピンオフ短編を描くことにした。この作品の目標、『目指せSF作品のO・ヘンリー』である。設定としては、スピンオフなので『時神と暦人』と一致する部分が多い。一色は夏見粟斗の弟分の暦人御師としている。彼が活躍する温かい物語が、『思い出の潮風食堂』である。これは人間愛が中心なので全年代向けだ。真面目すぎとも言えるが、案の定プレビュー数はそこそこである(笑)。まあ、僕の書く「ほっこりモノ」の反響はこんな程度で十分だ。


 内容は、主人公が当時船橋に住んでいた夏見のご近所、しかも弟子ということで、一色のもともとの受け持ち御厨である、そして船橋のほぼ隣に位置する葛西を舞台としている。夢の国の遊園地のすぐ横の町。臨海公園駅の海とは反対側にある古くからの商店街が舞台だ。昭和の商店街をイメージして、義理人情や昔ながらの習慣と仕事などを題材にしているので、今「カクヨム」にて執筆中の「神明社とガールズネーム(仮)」※の土台のようなものに、ほんの僅かかもしれないがなっていたのかもしれない。ただし潮風食堂は先に記したが人間愛、そしてバリバリSFと不思議現象が出てくるので、ほのかな男女愛とプレーンな作品の後者とは少し違う味付けだ。


 話は前後するが、このちょっと手前に古巣の「エブリスタ」を離れ、「カクヨム」と「魔法のiらんど」へと媒体の転居を試みた。理由は特にない。しいてあげれば、操作方法のシンプルな媒体が良いというおじさんらしい理由だ。あれこれ色々機能が増えるということは操作方法がややこしくなるし、新たに覚えることも多い。使い慣れた手法、操作方法だけで十分な僕は、シンプルに文章と向き合いたかった。ついでに「小説家になろう」にも一話分だけ置いてみた。比べてみて、結果どうだったかというと、機能が複雑すぎない「カクヨム」と「魔法のiらんど」に僕の作品を置くことにした。本当は「エブリスタ」の応募環境が十分良いことも知っている。あえて「カクヨム」と「魔法のiらんど」に置いた結果は……。まだわからない(笑)。


 初年度は「魔法のiらんど」でも、『時神と暦人』については一次選考を通ったが、今年は初めて初戦敗退、惨敗となった。目も頭もぼやけているので年相応だろう。まあ数年前に、仙人なったのでそれほど残念には思っていない。こういう回もある。今の時流にあっていないのとお色気がないのが敗因かな? と僕は見ている。見当違いかも知れないが、直そうとは思わない。僕にお色気シーンは無理である。おじさんだしね。想像するだけで自己嫌悪しそうだ(笑)。なんとか中身で勝負していくつもりだ。


 


 おっと、今回は文量オーバー気味。この辺で次回に回そう。


※「恋と御縁の浪漫物語」シリーズ

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