第3話 二〇〇〇年から二〇一〇年あたり
ほぼ自己能力の確認の時代。一次選考止まり。それが僕の平常運転。実力である。初めて通過したときは「このまま受賞か?」などと邪念を抱いたが(付ける薬もない・笑)、その高慢ちきな野望は砂城のごとく崩れ去った。しばらくは一年にひと作品程度は一次通過を繰り返していた。そのうち世の中がクラウド化するにつれて、足早に小説コンテストの環境も変わってきた。かつての職場の同僚でたまたま物書き仲間となった者が、「今はクラウドで書き置きできるから印字出力なんてしなくていいらしいよ。そのままコンテストにも出せる」というヒントをくれた。彼はもう交流はないが、まだ書いていればきっとどこかで出会うだろう。
そこでクラウド式の小説媒体について結構調べた。二〇一〇年代のはじめ頃だ。いまでも結構感謝しているのがエブリスタという小説媒体だ。ここに作品を置かせてもらったのは長かった。四、五年は置いていた。やってみたら便利だった。この環境しか知らない世代の人には、使い勝手の点でいろいろ注文もあったのだろうが、原稿用紙の時代から始まった僕には夢のような媒体である。書き置きして、そのままコンテストに出すこともできるのだ。
辞書で言葉を調べ、肉筆で書き、出来上がった原稿用紙を一枚一枚コピーして手元に残してから、綴紐で括って、ノンブルを打って、郵便局に持っていく。落選すれば戻ってこない数ヶ月かけて作った原稿用紙。莫大な時間と労力とお金をかけたものが落選して無駄となる(笑)。それが全て解消されるのだ。リサイクルできる。夢のようだ。
そしてこの媒体は年に一回ほど皆で交流する会を催していた。参加希望者が集まり、会費を払って参加する。賞の受賞者の表彰式も兼ねたパーティだった。そこで受賞者と知り合ったり、同年代で書いている方々と情報交換したりと、ささやかな庶民の文壇みたいな世界だった。食事もおしゃれなものが出て、二、三回ほど出席して渋谷の街で文学小説談義を楽しみ、満喫出来た素敵なイベントだった。大昔の同人仲間の会合を思い出した。
そのパーティに初めて出席した時に、このクラウド媒体の応募の利点なども優しく教えてもらえたので、今でもエブリスタには良い印象を持っている。しかしここでも一次通過、二次はダメという流れは一緒だった。だから逆に言えば、『時神と暦人』はサードシーズンまでは大賞級コンテストの一次通過作品でもある。
そして僕は年齢もあったのだが、安穏と小説を書くことに決めた。賞レースはあまり気にせず自分の世界を文字を使って広げていくことを当座の僕の目的にした。昔は僕が書き始めた頃は十代の応募者など数えるほどしかいなかった。それが今はこの類の媒体には十代が多い。不思議だ。世の中どこでこんな風に変わったのだろう。
勿論出せる作品がある時は、出していくのには変わりないが、無理してまで作らない。自分の書きたいものをストックする方向にシフトした。
それにデビューしていようが、いなかろうが、小説を書ける媒体は提供されているのだ。ここに読み手様がいれば、需要と供給は成立する。そして僕は仙人になった(爆)。
話は前後してしまうが、二〇年代に入る数年前頃には、『時神と暦人』の執筆は順調にファーストシーズンを完了する。山﨑と美瑠の物語はファースト・シーズンの全10話で完結して、新たな物語展開を考えた。
ただ、ここまで育ててきたこれらのキャラクターを失ってまで新展開するほどの勇気がなかったので、ファーストシーズンの脇役たちの中から、それでもって、モブよりは重要な役を担っていた脇役キャラクターをセカンドシーズンでメインに据えようという方向にした。
ヒロイン、
ご主人の夏見はこれまた放浪癖のある自由人。山崎とは正反対。理詰めの山崎に対して、感性の夏見である。
ネーミングは他でも書いているのでサラリと言うと、角川映画のもじりが角川栄華で、夏見粟斗は
なぜ角川映画かというと、僕の中学・高校・大学時代、横溝正史、赤川次郎、筒井康隆、眉村卓、夏樹静子、片岡義男、内田康夫などの各氏方々の作品は角川映画で知ったので、そのオマージュとしている。
加えて、次のシーズンから暦人御師と御厨の関係、
こんなところで目標文字数に達したようだ。次回は『時神と暦人』サードシーズンと『思い出の潮風食堂』を中心にご案内できたらと思う。
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