第28話 大切で大好きな二人のどちらかを選べません ~これが、僕の。~
このまま一緒にいたら、どうなる?
近すぎる距離に僕が勘違いをして、いつかきっと、間違いが起きてしまう気がする。
いつか、僕が。
ほのかと葛を求めてしまう気がする。
だから、と言って。
僕は本当に、二人の出逢いと他の誰かへの誓いを祝福できるのか?
こんなに。
こんなに心が、ざわついて。
こんなに、二人の事が大好きなのに?
今。
佳奈子さんは僕の気持ちを確かめようとしている。
ハッピーエンド。
バッドエンド。
トゥルーエンド。
ハーレムエンド。
僕の目の前に今、マルチエンディングの世界が広がっている。
答えは、決めたじゃないか。
二人を悲しませたくないから、好きという気持ちを諦める。
このまま家族のような関係でいたいから、そっと距離を置く。
二人の幸せを応援して、手助けをして。
それでいいじゃないか。
喉元迄出掛かった答え。
口を開く。
声が、出ない。
決めていた思いのひと言目が、離れない。
●
人生は、ゲームとは違う。
取り返しのつかない一言が。
取り返しのつかない行動がある。
ゲームのようにリセットができない。
やり直しができない。
僕の気持ちが
それは誰のハッピーエンドかバッドエンドとなるのか。
分からない。
分からない。
目の前で挑発的な瞳を僕に向ける佳奈子さん。
そして、僕の横では。
真っ赤な顔の涙目で、その顔を睨むほのか。
自分を、床を叩いては叫ぶ葛。
僕が愛してやまない妹分。
大切な大切な幼なじみで、家族のような存在。
そして僕の、理想の女子達。
マルチシナリオの選択肢、決まった。
誰が望む、望まないじゃなくて。
どんな結末が待ち構えていたって。
本心は、一つしかないじゃないか。
●
自分を痛めつける葛の腕をそうっとそうっと押さえながら、ほのかの肩を
「……お兄、ちゃん?」
「優ちゃん……! 離してよおっ!」
二人の体を両方の腕で抱えながら、佳奈子さんから目を逸らさない。
冷や汗を掻きながら。
体を震わせながら。
逸らすわけにはいかない。
「……ほお、ほお。何か言いたい事がありそうねえ」
ニマニマと頬を緩めて見下ろしてくる佳奈子さんは余裕の表情だ。
「佳奈子さん」
「ん?」
「僕は、選べません。大切で大好きな二人のどちらかを選べません」
「うん」
静かな言葉とは裏腹に、その瞳が猛獣のように収縮していく。
怯むもんか。
ほのかが、僕に力いっぱいしがみついてくる。
「……だったら! だったら葛を……葛を幸せにしてあげて! 葛はお兄ちゃんを絶対に幸せにするよ! だか、らあ……!」
涙を溢すほのかが、僕のスウェットを掴んで前後に揺らす。
まるで僕の顔を目に焼き付けるように。
これが、見納めであるかのように。
「優ちゃん、私はからかっただけよ。本当は全然好きじゃない。ほのかを慌てさせたかっただけ。ほのかの気持ちに応えなかったら泣かすわよ?DTをからかうの、楽しかったわ。ふう、楽しかっ……」
俯いて、肩を震わせている葛。
ゆっくりと、床を両手で押して。
ゆっくりと僕から、ズリズリと離れていく。
ああ、勘違いさせちゃったか。
ごめんな?
覚悟してくれ。
目いっぱい息を吸い込んで、止める。
ゆっくりと。
ゆっくりと、息を吐く。
そしてこれが。
僕の、渾身の一撃。
●
「二人を不幸せにするかもしれません。でも……大好きなんです。僕は結局誤魔化していただけでした。僕は二人と一緒に生きていきたい。何と言われても、僕だけのほのかと葛にしたいんです。二人を二度と諦めたくないんです」
「……お兄ちゃん?!」
「優ちゃん!優ちゃん……!」
必死の表情でしがみついてくるほのかと葛。
僕は佳奈子さんを睨んだままに、二人を固く抱きしめる。
すると。
佳奈子さんは、花が咲くようにほわり、と本当に嬉しそうに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます