第28話 大切で大好きな二人のどちらかを選べません ~これが、僕の。~


 

 このまま一緒にいたら、どうなる?


 近すぎる距離に僕が勘違いをして、いつかきっと、間違いが起きてしまう気がする。


 いつか、僕が。

 ほのかと葛を求めてしまう気がする。


 だから、と言って。


 僕は本当に、二人の出逢いと他の誰かへの誓いを祝福できるのか?

 

 こんなに。

 こんなに心が、ざわついて。

 こんなに、二人の事が大好きなのに?


 今。

 佳奈子さんは僕の気持ちを確かめようとしている。


 ハッピーエンド。

 バッドエンド。


 トゥルーエンド。

 ハーレムエンド。


 僕の目の前に今、マルチエンディングの世界が広がっている。


 答えは、決めたじゃないか。


 二人を悲しませたくないから、好きという気持ちを諦める。

 このまま家族のような関係でいたいから、そっと距離を置く。


 二人の幸せを応援して、手助けをして。

 それでいいじゃないか。


 喉元迄出掛かった答え。

 口を開く。


 声が、出ない。

 決めていた思いのひと言目が、離れない。



 人生は、ゲームとは違う。


 取り返しのつかない一言が。

 取り返しのつかない行動がある。


 ゲームのようにリセットができない。

 やり直しができない。


 僕の気持ちが濾過ろかされて、出ていった結果。

 それは誰のハッピーエンドかバッドエンドとなるのか。


 分からない。

 分からない。


 目の前で挑発的な瞳を僕に向ける佳奈子さん。


 そして、僕の横では。


 真っ赤な顔の涙目で、その顔を睨むほのか。

 自分を、床を叩いては叫ぶ葛。


 僕が愛してやまない妹分。

 大切な大切な幼なじみで、家族のような存在。


 そして僕の、理想の女子達。




 マルチシナリオの選択肢、決まった。


 誰が望む、望まないじゃなくて。

 どんな結末が待ち構えていたって。


 本心は、一つしかないじゃないか。

 




 自分を痛めつける葛の腕をそうっとそうっと押さえながら、ほのかの肩をさすりながら、僕は果し合いのように佳奈子さんを睨みつけた。


「……お兄、ちゃん?」

「優ちゃん……! 離してよおっ!」


 二人の体を両方の腕で抱えながら、佳奈子さんから目を逸らさない。


 冷や汗を掻きながら。

 体を震わせながら。


 逸らすわけにはいかない。


「……ほお、ほお。何か言いたい事がありそうねえ」


 ニマニマと頬を緩めて見下ろしてくる佳奈子さんは余裕の表情だ。


「佳奈子さん」

「ん?」

「僕は、選べません。大切で大好きな二人のどちらかを選べません」

「うん」


 静かな言葉とは裏腹に、その瞳が猛獣のように収縮していく。


 怯むもんか。


 ほのかが、僕に力いっぱいしがみついてくる。


「……だったら! だったら葛を……葛を幸せにしてあげて! 葛はお兄ちゃんを絶対に幸せにするよ! だか、らあ……!」


 涙を溢すほのかが、僕のスウェットを掴んで前後に揺らす。


 まるで僕の顔を目に焼き付けるように。

 これが、見納めであるかのように。


「優ちゃん、私はからかっただけよ。本当は全然好きじゃない。ほのかを慌てさせたかっただけ。ほのかの気持ちに応えなかったら泣かすわよ?DTをからかうの、楽しかったわ。ふう、楽しかっ……」


 俯いて、肩を震わせている葛。


 ゆっくりと、床を両手で押して。

 ゆっくりと僕から、ズリズリと離れていく。


 ああ、勘違いさせちゃったか。

 ごめんな?

 覚悟してくれ。


 目いっぱい息を吸い込んで、止める。


 ゆっくりと。

 ゆっくりと、息を吐く。


 そしてこれが。


 僕の、渾身の一撃。





「二人を不幸せにするかもしれません。でも……大好きなんです。僕は結局誤魔化していただけでした。僕は二人と一緒に生きていきたい。何と言われても、僕だけのほのかと葛にしたいんです。二人を諦めたくないんです」

「……お兄ちゃん?!」

「優ちゃん!優ちゃん……!」


 必死の表情でしがみついてくるほのかと葛。

 僕は佳奈子さんを睨んだままに、二人を固く抱きしめる。


 すると。


 佳奈子さんは、花が咲くようにほわり、と本当に嬉しそうに笑った。

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