第27話 牙を向く前の。 ~佳奈子さんVS幼なじみ達~

「全くもう……優君のゴリッゴリに娘達の御開帳を見せられるわ、ぶっかけられるわ。まあ、優君の部屋にこそこそと、堂々と押しかけてる時点でお父さんと予想はつけてたけどねえ」

「「「…………」」」


 返す言葉などあるはずもない。僕ら三人は服を羽織りながら絶賛正座中でもあるのだ、反省。


 ほのかと葛の温もりから二人は全裸に近い恰好だったと想像できるし、僕はトランクス一枚だったのを脱がされていたのだから、いくら普段から多目に見ている母親としても、目も当てられない状況だったのだろう。


 でもですね?お願いです佳奈子さん。

 前半の台詞は冗談と言ってくれませんか……。


 黒く艶やかなポニーテールを揺らしながら、ほのかと葛のお姉さんと言っても違和感のない相変わらずの美しさの佳奈子さんが顔を拭く姿に、とにかく願うしかない。


 冗談、佳奈子さんの冗談!


 うう、こわ。


 

「で?アダルトグッズを床に散らかして、アンタ達はどんなプレイにいそしんでたのかな?ほれほれ、佳奈子さんにぶっちゃけてみようか」

「お兄ちゃんが泣いておねだりする迄『じれじれごっこ』してただけ!」

「優ちゃんが『もう我慢できないっ!』ってお尻を突き出す迄甚振いたぶりつくすつもりだったのに、飛んだ邪魔が入ったわね」

「我が娘達ながら、面白い事言い出し始めなすった」


 おい。


 佳奈子さん呆れてるじゃないか。

 お前達は僕に、何を期待しているんだ。

 

 そう思った瞬間。


 ほのかが頬を膨らませ葛が唇を尖らせ応戦しているその姿を見てホンの一瞬だけ薄笑いを浮かべた佳奈子さんと。


 目が、合った。


 バチリ!


 ぞわり。

 鳥肌が立つ。


 この目は。



 神社の娘でその美しさと明るい性格、そしてから祭りで店を出すテキヤの人間達に崇められていたという佳奈子さんだが、怒る事はめったにない。


 けれど僕は、この表情を小さい頃に一度見た事がある。


 お祭りに連れていってもらった僕達に絡んできた酔っ払いのおっちゃん達を、コテンパンに直前の表情。



 猛獣が飛び掛かる前の。

 牙を、剥く前の。



「そかそか。でもさ? ほのか、葛。いつまでも二人のお遊びに付き合わせるのはもうそろそろやめた方がいいんじゃない?優君にそれ、ただの嫌がらせよ?」


 口元を歪ませた佳代子さんの、挑発的な言葉。

 

「お母さん?!」

「何、ですってえ!」

「ほら、話は途中よ。ほのか、葛。座りなさい」

 

 憤って片膝を立てた二人。だが、温度の下がったようなその声色に歯を食いしばって座り込む。


 佳奈子さんの目が笑っていないのもあるだろう。

 空気が、ぴん!と張り詰める。


「二人がそうやって束縛していたら、優君の彼女やお嫁さんはいつまで経っても現れない。アンタ達は優君が幸せになる邪魔をしてるのよ?」

「どうして?! 今までそんなの、言った事なかったじゃん! 遊びな訳ないじゃん! 小さい頃からずっとずっと……お兄ちゃんだけを見てきたのに! 応援してくれたのは何なの?! ……ひどい、ひどいよ!」


 ほのかが大粒の涙を流しながら、佳奈子さんを睨む。



 違う。



「誰が何と言おうと、誰に何を言われようと! ほのかと私の気持ちは変わらない……! 二人が同じ人を好きになる事はよくあるってお母さん言ってくれてたじゃない! なのに何で、好きでいるのはダメなのよ!」


 ドン!


 ドンッ!!


 葛が体を震わせながら、自分の太ももを拳の縁で叩く。



 そうじゃない。



 佳奈子さんの目はずっと、見据えている。

 これは、きっと僕への選択肢。

 


” 貴方の立ち位置を教えて? ”


 

 今、改めて。

 僕の二人への気持ちを、確かめようとしているんだ。


 

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