第24話 きゃー!出やがったぁ! ~幼なじみは見ていました~

(何でまたそんな顔してるのよ!ちょ、ちょっと言い過ぎたかな?……ねえ、この後一緒にご飯食べない?お酒でも飲みながら、嫌な事をパーッと忘れちゃうぐらいにさ?わ、私が……有本を元気にしてあげるよ)




 今思えば……ほのかとかずらは単純に僕に合わせてくれていたのかもしれない。本やゲームの世界にワクワクして喜びを分かち合いたいと巻き込んでしまった僕に。


 そして。

 全てがそうだった。


 あの二人が僕と一緒にいて、何をするにしても……嫌がる素振りどころか、いつも楽しげに、面白そうに付き合ってくれた。


 そう。


 そんな風に小さい頃から僕の事、いっぱい大切にしてくれてた。寄り添ってくれてた。

 

 僕が悲しむ時は一緒に泣いてくれた。


 悔しい時。

 嬉しい時。


 頑張った時。

 落ち込んでいる時。


 いつもいつも、傍にいてくれた。

 どんな時でも僕に前を向く力をくれた。




(こ、コイツ!全然聞いてない!……こうなったら力技で、逃げ場のないように仕向けてあげる。ねえ、あいつらを忘れたいから、私と付き合うんだよね?……よし、聞いてない。これで後は既成事実を作っちゃえば……!)



 

 家族で、妹分で、幼なじみで。

 そして……僕の最愛の女子達。

 

 どちらが好きだなんて、選べる訳がないんだ。

 選べる、訳がない。


 同じくらい愛してる。

 

 ……ああ。

 するべき事が、分かった気がする。


 

 ●



 べしい!


 いってえ?!


「もう!いい加減にしろ!私がこんなに一生懸命誘ってるのに!有本の為に頑張ってるのに!聞けよ少しぐらい!」


 あ、頭……ぶっ叩かれた。いや、これは僕がいけない。

 また考え込んでしまってた。

 

「ご、ごめん」

「せっかく相談に乗ってやってるのに、もう!……はあ、全く。ほら、続きはあとあと!飲み行こうよ!」

「え?あと?」


 え?

 そんな話してたの?

 幸田の友達と一緒じゃなくて?


「さっき、場所を変えようって言ったよ?からいいんでしょ?随分目立っちゃったし……ほら、行くよ!」

「マジか僕。お、おい」


 手を引っ張るな。

 もげる。


 ……ま、いいか。

 外に出てから話そう。


 胸が苦しいのは変わらない。

 が。


 幸田のおかげで幾分、スッキリとした。

 お礼を言わないとな。



 こういう時は男が払った方が……?

 おっとっと。相談に乗ってもらったのは僕なんだから当たり前じゃないか。


 この前のお詫びを兼ね、伝票を幸田の手から取ってレジに並ぶ。……何でこんなに驚いてるんだ?


 あれ?ち、違った?

 ラノベがバイブルでごめんなさい。

 と、とりあえず払っちゃおう。


 会計を済ませて外を見ると、街は夕闇の中。

 スマホを見ると六時を過ぎていた。


「奢り、ごち!」


 幸田は嬉しそうに笑っている。

 こら、何で腕にしがみついてくる?

 

 よせ。ぽよぽよがむにむにしてるじゃないか。

 何がしたいんだ、コイツ。

 ダメだ、離れてくれない。

 

「……うふふ♪もしかして、さ。有本って実はこのイケてる感じがホントなんじゃない?」

「どこがイケてたのかさっぱり分からんが……なあ、幸田。誘ってもらって生返事だったのは悪いけど、飲みに行くって話はまた今度じゃダメか?土曜日の友達と一緒に。お詫びがてら奢るから、さ」

「えー!今日これから二人で行こうよ!三人じゃヤダ!」


 んー。

 取り合えず先に言っておくか。

 

「ごめん。実は聞いてもらってるうちに悩み、解決したんだ。本当にありがとう。あとは今日はもう、部屋に帰って少し考えたいんだ」

「え?!どういう事よ!その気にさせといて!」


 その気?

 どの気だ?


「あいつらを忘れる為にも……新しい恋を!わ、わ!私を彼女にするって言ったじゃないっ!」

「は?……え?!」


 いやいやいやいや!嘘だろ?!

 でも……幸田、目がウルウルしてるよ!


 マジでそんな事言ったの?!

 え?!結論とはを言ったのか?僕!


 ……いや。

 無いな。

 いくら考え事してたとはいえ、流石にそれはおかしい。


 生返事ならともかく、思ってもない事をそこまで言わないんじゃないか?イケメンならラノベのように後々の修羅場確定、僕ならば……只の痛い奴が何の寝言をホザいてんの?!キモ!とか。


 ぐふっ。

 自分に痛恨の一撃を入れてしまった。


 一旦、必死に言い募る幸田から目を逸らし、深く息を吸って吐く。


 すう。

 はあ。


 ……よし。


「あのな、幸田。それは無い」

「言ったもん!」


 幸田……何かムキになっているな。

 でもここは否定しないと。

 

「僕にだな、いくら夢想癖があるとはいえ……心にもない事は言わないはずだ。そしてそんな悪癖があるなんて聞いた事がない。それに決めたんだよ。僕はあの二人が幸せになるまで、誰とも……」


 ガガッ!!


 え?

 幸田の後ろから伸びた手……悪役令嬢とひよこの着ぐるみさん?!


「ダメかしらん。正攻法なら黙って見てましたデース」

「ほのか。私の真似ってそれぴよ?泣かすぴよ?」


 ほのか?!

 葛?!


「え……きゃー!出やがったぁ!」

「ちょっと待てえ!そこのちっさい悪役令嬢は、ほのかか!見守りアプリで来たのはわかるが!」

「見て見て!ほのか、悪役令嬢になったんでござるわ!」

「まずは正気になれ……!」


 そして。

 嫌そうな顔をして後ずさる幸田の傍にいるひよこ。


「葛……何でひよこの着ぐるみ着てるんだ?」

「ひよこデース」

「かぶっちゃってるよ?!」

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