第23話 幸田と着ぐるみさんと悪役令嬢。 ~お兄ちゃんは大変です~

 ぐぅ……痛い。

 めちゃめちゃアイアンクローされた。


「……昨日の今日であんなに絡んだ奴らを忘れるわけないでしょ!しかもあたし達を散々に煽ったあいつらを!」


 ああ、だから真っ先に二人の事を思い浮かべたのか。

 これは浅はかだった。


 いや、でも。

 しかし、だ。

 

 恋バナどころか普段から大した会話もしていない幸田に、言いづらい事だってあるじゃないか。


 幸田の言い分ももっともではあるが……。


 深呼吸をして、気持ちを整える。

 よし。


「いやいや待て待て、早合点するな。確かにほのかとかずらのインパクトが絶大だったからそう思うのかもしれないが、友人の話と言ってるだろ?話を聞いてくれ」

「……ほお?まだ粘るんだ。じゃあいいよ、そういう事にしといてあげるよ。で、その男はどんな奴なんよ」


 お、話を少し逸らせたかもしれない。


 青筋を浮かべながら笑っている幸田の顔がとんでもなく恐ろしいが、またアイアンクローを食らわないように、これ以上気を悪くさせないように今度は慎重に行こう。


 どんな奴?

 関係あるのか?


「聞いてどうする?今の話の流れに必要か?」

「あるよ。んでその二人がそいつに対してどんな感じなのかも聞きたいの。脈がありそうかどうか。何とも思ってなかったら、告白してもしなくても一緒でしょ?逆にイケてたら、諦めない方法もあんじゃないの?」

「おおお……!」


 そういう事か!

 すごいな幸田。

 恋愛経験豊富、伊達じゃない。


「相談してよかった。心強いよ」

「でっしょー!ほら!聞くから!先、話しなさいよ!」


 あ、ドヤ顔でふんすふんすし始めた。

 こいつ意外と可愛いとこあるな。

 

 えっと……どこまで話したっけ。


「まあ結局、の悩みはさっき言った通りで……」


 ガッ!!!


 ぐああ?!

 またアイアンクロー?!


 僕の頭はリンゴじゃないんだぞ!

 変な汁出ちゃう!

 握りつぶされちゃう!


「何なんだよ!『僕』って言っちゃってんじゃねえか!できもしねえ例え話しねーでキリキリ吐けや!話が進まねえだろうが!」


 あああ?!

 やらかした!



「そういう訳です。嘘をついてました。僕の事です」

「最初からそう言えってんだよ!ったくもう!」

「ごめんなさい」

「有本がおかしな事ばっかり言うから注目浴びちゃってるよ……。ちゃんと言ってよ!」


 二回目のアイアンクローは本気で命の危険を感じたわ。

 周りのお客様、本当にごめんなさい。


 ホントだ……周りからめちゃめちゃ見られて、え?!


 勇者がいる。


 ひよこの着ぐるみの人は何かのイベント?

 後、高級感溢れる黒いベールのドレスの女子?

 悪役令嬢みたいな雰囲気をめちゃ醸し出してる。

 後姿だからどんな人なのかはわからないが。


 もしかしてレイヤーさんと、バイト休憩中な着ぐるみさんなのかな。


 ま、まあ。

 あまりジロジロ見るのも失礼だな。

 それに騒がしくして迷惑をかけ、注目を浴びてるのは僕らの方だ。


「でもさ、有本。二人を同時に好きになるってあるよ」

「そうなのか?」

「まあ私だったらうまく二人と付き合うか、どっちかと付き合ってもう一人はキープするけどね」

「おい」


 何言ってんだコイツ。


「何よ、いいじゃん。バレなければ問題なし!」

「そうする気には全くなれない……が、それ。ちなみに聞くがバレたらどうなるんだ?」

「修羅場ね。私はバレた事ないけどね!でもさ、有本は不器用そうだからそっこーバレそうだけど」

「……恋愛をした事がない僕でも修羅場事案だってわかるし、無理だ」


 恋愛経験値ゼロの僕に器用な真似ができる筈がない。

 

 それにそもそも、論点が違う。

 そういうことじゃないんだが。


「なあ、幸田。僕が悩んでいる事は……」

「わかってるよ。だから、あいつらとこのままの関係でいたいっていうのなら……方法は一つしかない」

「方法、あるんだ。ぜひ……あ、ちょっと待って」


 これを聞き逃してはいけない……おっと、そうだ。

 相談内容が内容だ。僕の恋愛の相談など誰も注目してないと思うが……周りを確認してみよう。


 ……周りの人達とちょこまか目が合うな。

 興味を持たれてるのか?

 いや、さっきから騒がしかったからというのもあるか。

 ごめんなさい。


 着ぐるみさんと悪役令嬢の方、席あそこだったっけ?

 うーん……ま、いいか。

 早く解決策を聞いてみたい。


「待たせてごめん。頼む、効かせてくれ」

「えー……どうしよっかなあ。何かご褒美ほしいなあ~」

「ご褒美?ああ礼はさせてくれ。夕飯奢るとかダメか?」

「手」

「は?」 


 また手を握ってきた。

 絡ませてこないでくれ。さすがに恥ずかしいってば。

 

 知り合いに見られたらSAN値が削れるレベルだぞ。

 そんな事より早く答え、プリーズ。


「このままの関係でいたいのなら、か、彼女作ったら?」

「彼女?」

「そうしたら、悩み解決じゃない?あいつらと不自然に距離を置かなくても済むし、初彼女なんでしょ?い、一石二鳥じゃない……?」


 ああ、恋愛物でよく見るな。

 好きな人の事を諦めて、別の人と……か。


 そっか。

 ほのかと葛との家族関係は変わらずにいけるのか。

 

 ちゃんと自分の気持ちを確かめて。

 それで選んだどっちかに告白してフラれて。

 そのうちに笑い話になって……なんて絵空事だよな。



(ちょっと、有本!聞いてるの?目え開けなさいよ!)



 ……大好きな二人が幸せになる姿をこれからも傍で見てていいのか。 

 彼氏や旦那さんと幸せになっていく姿を。


 いたた……くうう、胸が苦しい。

 でも僕じゃダメなんだ。


 別の恋、か……。

 陰キャの僕に、すぐに彼女は出来ないかもしれないけどいつか、さ。



(こっからが大事なとこなんだってば!聞けやこらぁ!あんたの、その……すごいんでしょ?あたしが彼女になってやるって言ってんの!)




 僕と話の合う女の子って、いるのかなあ。

 いるといいなあ。


『くくく!我は魔王なり!……ねえねえ!一緒に異世界ごっこしたい!』

『今日の私はもうHPぜろー。宿屋優ちゃん。ぎゅー。なでなで』


 ……ははは。

 ははは。

 ほのかと葛。


 ……泣いてもいいですか?


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