第16話 ぞ、ゾンビ、来るぅ! ~ほのかと葛、怪しくなってきました

 登場人物達の危機を示すような、重低音のBGM。

 僕ら三人の目は、映画が映し出されているテレビの画面に釘付けである。


「む。ゾンビの数、多いわね」

「これ逃げられるの?!マップ、真っ赤っかじゃん!」


 ゲームさながらに、主人公達達の立つ場所から上空の俯瞰マップへと移行した。

 少し間隔を置いて、マップ上は真っ赤な点どころか色が重なって真っ赤っかだ。

 この見せ方、カッコいいな。


 某有名サバイバルゾンビホラーゲームにハマった僕は、映画を楽しめている。


 が。


 座椅子に座る僕のそれぞれの足に頭を乗せながら、きゃあきゃあ!と騒ぐほのかと葛には刺激が強すぎたようだ。


 解せぬ。

 二人が選んだ無料動画だというのに。


「ほのかが、『これがいい!ひっついてイチャイチャする!』なんて言うから!」

「葛だって!『確かに堂々と密着して粗相ができるわね』って言ってたじゃん!」


 おい。



 この映画のストーリーは、こうだ。


 ゾンビが蔓延はびこる異世界に呼ばれ、互いをかばいつつ必死に生きる兄妹。


 この世界で唯一、ゾンビに嚙まれても人間のままでいられる特殊体質の兄。

 異世界に来て、魔法を使えるようになった妹。


 この世界の人間で、同じ様にゾンビと闘いながら生きていた若者達と合流した二人は、 知性を持つゾンビをも仲間に加え、喜びと悲しみの中で未来を探していく。


 ウェブ小説が人気となり、書籍やアニメ化もしている大ヒット作。

 僕が楽しみに追いかけている作品の一つだ。



 二人が慌てて起き上がり、左右から抱きついてくる。


「ぎゃあ!来てるよ!早く逃げてえ!」

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・前・行!消え去りなさい!優ちゃんの理性!」

「お兄ちゃん!ほのかを清めて!ぺろぺろ、してえ!」

「どさくさに紛れて何言ってんの?!」



 幸田と別れた後の、帰り道。


 僕の両手にそれぞれの指を絡ませて歩くほのかと葛。


 流石に不安になり声を掛けても、無言で歩く二人。

 時折視線を感じた時に目を向けると。


 ほのかには潤んだ瞳で見つめられた後に、すぐに真っ赤にした顔をそむけられる。


 葛に至っては、目が合う度に『はあっ……』と息を吐き、ギリギリまで顔を寄せては僕の顔に鼻をくっつけては、すすすと離れる、の繰り返しだった。


 そして。


 甘々にくっついてくる美少女二人を連れた僕を、道行く人々が振り返り立ち止まっては見る始末。


 そう。

 幸田との戦闘モードに入っていたほのかが、何故か眼鏡を外したままだったのだ。


『すっご!超美少女二人、両手に花!何かの撮影?』

『二人とも恋人繋ぎ……マジかよ!くっそ!俺も!』

『男子もかなりイケてるね!ま、アンタにゃ無理だろ』

『くぅ!』


 その時は、何か嬉しかった。

 ほのかと葛のお陰で、僕への評価も十割増しになっていたようだ。


 やっぱり、二人と出かける時の為に少しは髪型整えたりしようかな。

 そんな事を考えているうちに、部屋に着いた僕ら。


 いつもみたいなサラリとしたハグではなく、ほのかがするように僕の背中に手を回して、ぎゅぎゅー!と僕にハグをしてきた葛と、同じ様に抱きついてきたほのか。


 葛とほのかの作ってくれた夕ご飯、本当に美味かった。


 色鮮やかな、アボガドとトマトサラダのニンニクわさび醬油がけ。

 ニンニクの香りが食欲をそそる、フワフワ玉子を絡めたチャーハン。

 噛み締める程に、美味しさが口に広がるレバニラ炒め。

 たっぷりとタレがかかった生姜焼き。


 そこに白いご飯とアツアツのお味噌汁。

 僕は『美味しい!』と何回も言いながら、ご飯を三回もお替りしてしまった。

 だって、美味しかったしさ。


 食べ終わって、何もかもがすっからかんになったお皿と電子ジャーを見て二人が驚いてたけど、すっごく嬉しそうに笑ってたから、よかったあ。


 そして、珍しく僕のお風呂に二人が乱入しようとする事もなく。

 先に、と勧められた僕、ほのかと葛の順番でお風呂に入って。

 いろいろな、心と体の疲れが僕の身体から溶けていった。


 今日は、幸田とのやり取りがあった。

 金曜日から、サークルに行っていないのに、体が疲れていた。

 まるで、試合で三セットマッチの最終セットまでもつれた試合をしたように。


 それを。 

 目に入れても痛くない程の可愛い大切な妹分達が、助けてくれ、癒してくれた。


 涙が出そうなくらいに。

 二人が僕を大切に思ってくれている気持ちに、震えそうなくらいに。

 本当に、二人が愛おしくて。


 こんな二人に愛される彼氏になる男子は。

 結婚をする旦那さんは、どんな人なんだろうな。

 

 いいなあ。

 羨ましいなあ。


 そう思った自分に驚いた。


 ま、もちろん。

 二人には内緒である。

 お兄ちゃん、力の限り応援するからさ。


 感傷的になりつつも、気持ちを切り替えて一息ついた後、映画を見始めたのだ。

 




 だが。

 

 どうして、こうなったの?


 座椅子で胡坐をかいた僕の太ももに、左右から僕に抱きつく二人。

 右は、ほのか。

 僕のパーカーの上着をぎゅう!っと握りしめ、右肩に頭を預けていた。

  

「ちょっと!ゾンビが襲来してから動画見てないだろ!動くなぁ!……落ち着け!

腰、揺らすな!擦り付けないでくれ!」

「きゃああ!お兄ちゃん!ゾンビ、来ちゃう!ああ!来ちゃう、来ちゃうよお!あああ!来る!ふあああ_!」


 くうう!

 ほのかの柔らかくて温かい部分が、パジャマ越しに伝わってくる。

 出ている声も、ヤバい!エロい!


 また、煽られてるのか?!

 でも、本当に怖がっていたら……引きはがせないだろうがっ!


「来てる。優ちゃんの太ももで来てるっ。あ、あ、あ、あ!ふ、くぅ!はあ!はあ!すっごい!!ゾンビがゾンゾン来る、来る来る来る来るぅ!」

「まずは翻訳してもらえますか?!」


 こっちもヤバい!

 葛のお尻が、大事なとこ辺りの感触がスエット越しに!

 柔らかくて……耳元では熱い息が。

 二人の大事なとこの、感触が。


 あああ!収まれ!僕、収まってくれ!

 葛とほのかに、興奮しちゃったの、バレバレじゃんかああああ!


 案の定、僕のその部分に気が付いた二人。


「お兄ちゃ、興奮したの?したの?嬉しいよう……!あああ?!」

「優ちゃん、今、は、これっで、勘弁して、あげ……や、ああああああ!」

「お、お兄ちゃんにキスしちゃダメだって」


 降ってくる、キスの雨、あられ。

 キスをされる度、その気持ちよさに僕のものに痛みが走る。


 え?これもまさか、夢?!

 だって、二人が大きくなってから、ほっぺにキスとかされてないじゃん!

 どっから夢なの?!

 えええ!


「あ!あ!あ!く、りゅ!くりゅの!!く!や!あ!ああああああっ!」

「い、や、あ!すごいの、き!あああああああああ!!!」


● 


 同時に倒れこんで荒い息を吐く二人のお尻の辺りと僕の太ももは、隠しようもなくホコホコと湿っている。


 二人の声と向けられたお尻の生々しさで、危うくパトスが出そうになった僕。

 

 すみません!

 いい加減起こしてもらっていいですかっ!


 






 出典(崔先生、ごめんなさい!)


①~普通の高校生(兄)と中学生(妹)が普通に敵をぶっ飛ばしていく物語です。~

「弱小人類 異世界がゾンビだらけになったようなので、俺たち兄妹で救ってやるよ! 崔 梨遙先生」

https://kakuyomu.jp/works/16817139554641879328


②九字 - Wikipedia

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B9%9D%E5%AD%97

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