第4話 スゴい既視感。


 首には、ぶら下がったアイマスク。

 背中でベッドの縁に寄りかかる僕。

 両腕はベッドの上下にそれぞれタオルで縛られている。

 気分は、牢に囚われた悪党である。


 と、いうか……既視感が半端じゃない。

 そして今、顔を背けざるを得ない。


 投げ出した僕の足を跨いで仁王立ちをしながら冷えた目で見下ろしているかずらの太もも、絶対領域から、である。


 視線のやり場に困った僕は、俯きながら問いかけた。


「な、なあ!まさか葛もオシ、オキとか言わないよな?また……そう、いろいろと明日以降にしてくれないかっ!」


 ……というかお前のせいで余計、腰のモヤモヤ感が半端なくなっているんだよ!


「お尻が大きくてたまんないぜ、ですって?はしたない。優ちゃん、シワの数から穴の位置、うぶ毛まで丸見えだったぜゲヘヘヘヘ、って顔してるわよ?イヤらしい。スケベ。でも残念ね、そのうぶ毛は妄想でしかない。見せてあげられるべきものが存在しないのだから。いい気味ね」

「言ってないだろおおおぉぉぉ?!それに、やめろぉ!」

「……?何をよ」


 お前、よく今の発言でドヤ顔できたな!

 というか、爆弾落として来るんじゃない!

 ツンツル……穴の……ぎゃああ!


 葛の四つん這いが下着が尻がフラッシュバックし、股関節辺りの切なさが増した。


 ぐぅ!葛は僕の事が嫌い、嫌い、嫌い……!

 ……あ、驚くほど収まった。


「その耳は餃子か何かか!というか、聞いてもいない生々しい情報その他を開示するなよな?!お前まさか!しょっ中そんな、人前で四つん這い……してるのか?!」


 流石に心配になったので、勢いのままツッコむ。


「馬鹿らしい。今日が初めてに決まってるじゃない。そもそもまだ万年筆一本足りとも侵入を許した事が無い上下の穴を、誰が好きこのんで曝け出すのよ」

「だだ漏れさすなぁ!何で万年筆が出てくるんだよ!」


 ホッとしながらも、付け加えられた新たな情報が頭の先から股関節の先までを荒々しく駆け巡る。


 誰も知らない、見たことが無い葛の尻と上下の……。

 

「もう、やめろ!ぶっちゃけるから許してくれ!僕だって男だ!それにそれに!葛やほのかをそういう目でみたくないんだ!その動画は僕の苦肉の……」

「あ、優ちゃんの家にお泊りしに行った時は別ね」


 葛が、思い出したように手をぽん、と鳴らした。


「く、苦肉の策……はい?」

「優ちゃんが寝ている間に第六感、だったかしら?の練習してたから。私の裸を思い出すのはやめなさい。はしたないわよ?」


 第六感……?

 な、何を言っているんだ葛は?


 そもそも、裸?

 小さい頃、お風呂に入れてやった時の話か?


 余りの訳のわからなさに、領域を通り越して見上げる。


「まあ、しらばっくれるのね。これの事だってわかってて言っているんでしょう?」


 これ?


 再度僕の足を跨ぎ、ペタペタと四つん這いになってPCに近づいていく葛。また、水色の下着が丸見えだ。


 もう、煽るのはやめてくれよぉ!!

 爆発してしまう!


「葛!普通に移動しろってば!パンツ隠せよ!」

「……何をそんなに慌てているのよ。見せてるって言ったじゃない。我慢できないならこのお尻を見て、たっぷりと出していいと言ったでしょう?」


 うにゃーん。

 ふり、ふりふり。


 アダルト動画など比較になるはずもない、見せた事もなく当然未使用の秘部が隠された薄手のパンツと、透けているお尻を惜しみなくさらけけ出す葛。


 い、息苦しい。

 股間も、苦しい。

 目眩がしてきた。

 

「シュワシュワ、早く見たいわ。そうそう、これよ」

「だから、シュワシュワしないからな!」


 葛がモニターの画面をとんとん、と指で叩いた。


 体をできるだけ前に傾け、目を凝らして、二メートル程先の動画の紹介画像を見る。

 

 え?!


「お前は人が寝てる間に何してくれてんだよ!!」

「あら、心外ね。男子ってこういうのが好きなんでしょう?クラスの女子から押し売りされて、大枚はたいて買った薄っぺらい本では、こんなポーズばかりだったわよ?」


 し、シックスナ……!!

 嘘だろ?!


 しかも薄い本って、同人誌なのか?

 大枚っていくら出したんだよ!

 

「たまに優ちゃんが寝ぼけて、ぐわ!とお尻を掴んで舐めまくるから全部脱ぐようにしたわ。何度粗相をさせられた事やら」

「ほのかとお前が泊まりに来る度に、顔がカピカピだったりヌルヌルしてたのはお前の仕業か!」

「何よ。ほのかも練習してたのに。私の目の先で、腫れ上がった優ちゃんのえげつない物を指先でこう……」

「やめろー!!お前らホントに何してくれてんだ!」

 

 指先の離れた輪っかを上下に動かす葛。

 くそっ!コイツら本当に見た事あるんだな、このぉ!


 乾燥肌とヌルヌルの脂ぎった肌を回避しようと頑張った僕の時間を返せよ!


 しかも、朝起きた時の股関節の違和感はほのかか!


「まあ、怖い。そんなに膨らませている癖に」

「今は驚きのあまり全くもって膨らんでないわ!」

「そう。まあ、いいわ。そろそろ、シュワシュワを吐き出したくてたまらなくなったんじゃない?流石には手伝えないけれど、我に秘策有り、よ」


 そう言って葛は、僕の目にアイマスクを被せた。


「お、おい!何をするつもりだ?!」

「構想一ヶ月。柔らかいだけの、私のお尻とは似ても似つかないお尻グッスを参考にして作り上げたわ。優ちゃんを包み込む穴もオプションでつけたわよ?『葛のお尻』Mark1、Mark2、……そうね、Mark3!行きなさい!」


 お前ら、驚く程そっくりだよ……。


 

 

 

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