第5話 一難去って、また一難。 〜ほのか、追撃〜


「チャット?お母さん?……何よ、優ちゃんの萌……だらしのなさすぎる顔を堪能してる時に……な、な、な!何ですって!」

「こ、これ、外してくれ!はあ、はあ……えっ?」


 『葛のお尻 Mark1』を装着されて一分弱。


 ぬめぬめ、ぬるぬるとしたその物体と、先っぽだけに加わったあいまって、内部強制パージが時間の問題な僕だった。


 が。


 聞こえてくる、かずらの怒りの声に我に返った。


「チーズも豆乳も牛乳もヨーグルトも切らした?!ほのかが昨日飲んで食べきった?有り得ない有り得ない有り得ない!どこまで大きくするつもりなのよっ!……こうしちゃいられないわ!」


 ぬるり。


 僕の大事な所に、ヒンヤリとした空気が当たった。

 すぐに布のようなモノを下半身に掛けられる。


 しゅるしゅる、とんとん。

 衣擦れとフローリングの床を踏む微かな音が聞こえ。


「口惜しい!次に準備が整ったらMark1、2、……そして3をもう一度出撃させるつもりだったのに!」


 葛は悔しそうに言い、ヘロヘロな僕に体を密着させる。


「ごめんね優ちゃん、中途半端になっちゃった。だけど……頑張った私にちょっとだけ、ご褒美、下さい」

 

 すうぅぅぅ。


 少しだけ、昔の様な雰囲気で囁いた葛。


 胸辺りから聞こえる葛の深呼吸の音と共に、腕からタオルが外されていく。


 腕が自由になったと同時に、ほのかの時と同じ様に顔に少し湿った指先が降り注ぎ、最後には唇にも触れてきた。


 ふにゅっ。


 挟み込むような柔らかい感触に、僕は慌ててアイマスクに手を伸ばした。


 元通りの雰囲気で立っている葛が、僕を見下ろす。


「あ、あのさ、ま、ま、まさか……今、キス……」

「……そんなわけ無いでしょ?これよ」


 葛が、くにくに、と人差し指と中指を揃えて曲げ、ペロリと舐める。

 

「また来るわ。せいぜいその二つの茹で卵に入り切らないほどの、とろっとろを溜めておきなさいな」

「な?!お前……!!」


 それも、僕をイジってただけだったのか?!


「知っているのは当たり前でしょう?どれだけ優ちゃんの顔の上で粗相そそうをしたと思ってるのかしら」

「勝ち誇っていい所じゃないよ?!」

「私とほのかの顔に大量に浴びせかけた時は、屈辱に喜びながら粗相が止まらなかったわ。恥を知りなさい」

「それがどんな心境なのか全くわかんないよ?!というか、ご、ごめん。あれ?僕のせい?」


 僕の言葉に葛は目を瞑って、昔のように、んべー!と可愛らしく舌を出してから大荷物を抱えて帰っていった。


 あいつ、まさか学校に怪しいお尻グッズ全部持って行って帰ってきた訳じゃないよな、という謎を僕に残して。




 葛が出ていった後、パンツと部屋着のスウェットパンツをそそくさと履き直し、息を吐く。


「危なかった……!Mark1?とのMark3で、頭が真っ白になりかけた……!」


 縛られていた腕を揉み、立ち上がってストレッチをした後に、へたり込む。


「うう、何か間抜けすぎる。……そもそも、Mark1とかロボ物みたいなネーミング、どこで覚えたんだ?意外とそれ系のアニメ、まだ見てるのか?」


 昔は僕に付き合ってロボ物のDVDを見てた事はあったが、今でもハマっているのかと思うと、面白い。


 無いか。


 ふと、宇宙空母に帰還したロボットから降り立ち、ヘルメットを脱いだ葛が首を振り黒髪をなびかせる姿を想像して、ドキリとする。


 ロボと美少女パイロット。

 最高に映える組み合わせ!


 そして、歓喜の表情で駆け寄るクルーに。


『余りの激戦に、粗相したわよ?綺麗にしておきなさい』


 ……誰得だれとくだ?

 よっこらしょ、と立ち上がる。


 うわ……股間の辺りがぬるぬると、変な感じだ。

 風呂、入るか……。


 アダルトグッスの潤滑ローション?みたいな物を、『葛のお尻 Mark1』に入れたのかもしれない。


 あ、違うか。

 一番最初に塗ってた方か。

 

 恐る恐るって感じなら、嫌なら触らなきゃいいのに。

 でも、指が上下する感覚がすっごく……あああ!

 葛のジト目、嫌われる、避けられる……ふぅ。

 何とかなった、けどもうホントヤバいかも。


 そういえば、一番はじめのMark3?は、明らかにサイズ違いだった。アダルトグッズ、そんなに差があるのか?


 痛いくらいに押し付けられても、先っぽが入るか入らないかの所から、全く進まなくて。


 二回ほど試して、入らない事に腹が立ったのか、どこかくじいたのかゴロゴロと床で暴れる音がしては、


「Mark3が可哀想でしょ!縮ませてよ優ちゃん!」

「あ、ああ!入っていかないよ!いったーい!ばかぁ!」


 とか、昔の口調で騒いでたのは何だったんだろう。

 なぜ僕が怒られる……。


 それにああやって本気で煽ってくるから、本当は葛の?!とか思ってしまったけれど、ほのかの例もあったし、葛も全力でからかってくるからなぁ……。


 でも本当に痛かったけど、ぐぐぐ!って進んで、先っぽの先っぽが包まれていくの、ヤバかった……。


 最後、逃げようとした時に弾みでへり近くまで入った時は首とか背中にビリビリが走ったし……。


 葛もその時にまた叫んで、転げ回ってたみたいだけど。

 そんなに大事なら、使わなきゃいいのに。

 全く、もう。


 でも、やめてくれ!もうほんとにヤバイ!って叫んで腰をずらさなかったらあのまま出ちゃって……クス!って笑われてイジられて……先っぽ優ちゃんとか……こっわ!


 何にしても、物は大事にしないとね。


 安い買い物じゃなかったろうし(多分)、グッズでも無理矢理、はよくない。


 あれ?そうすると次回また僕にMarkナンバーが?!

 ……部屋の鍵、変えようかな。


 ううう、またモヤモヤしてきた!


 けど、そうだよ!

 今しちゃおう!

 

 多分、この感じだとすぐに終わる。

 でも一回で足りるかなぁ……はぁ。

 まあ、この際だ!

 二回くらいすれば、大賢者モードだぁ!


 そそくさとPCのモニター前に座る。

 画面はさっきの、一覧画面のままだ。


 うっ!

 このお尻……葛に近……だ、ダメだって!

 あああ、ヤバイ!股間がっ!いっ、痛い!

 でも別の!別のぉ!早く!

 葛の顔、見れなくなるだろ!


 胸……胸なら……うわ!

 ほのかの甘い声、本気の邪魔を思い出した!

 

『ん、あ!お兄ちゃん……いじわる!いじ、わるぅ!

わかってるんで、しょ?』

『ほのかのおっぱい……お兄ちゃんだけのおっぱい、もっと好きにしていいよ?お兄ちゃんだけのほのかだよ?』


 ……一回目はほのかの声、二回目は葛のお尻で……、

あ、あほか!それができたら苦労してない!


 お兄ちゃんのメッキ、誰か補強してよ!


 ●


 ん?これ、いいかも!

 

 動画一覧のタイトル画像で、水着を着たお姉さんが肩ひもを両腕の二の腕に垂らし、もう我慢できない!と言わんばかりの色っぽい表情を浮かべている。


 女子の、もう我慢できない!って表情が本当にこれなのかどうかは見た事がないからわからないけど。


 でも。


 彼女ができるってどんな感じなんだろう。


 もし、恋人になって愛を育んでいって……心も体も重ね合えたら、僕もこんな表情を見せてもらえるのだろうか。


 もっと自分を磨かないとダメかもしれない。

 欠点を見直して。

 努力をして。

 その先に、スタートがあるのだろうから。


 ……あ、収まったかも。


 背もたれに体重を掛けて、ゆっくりときしませる。

 

 ほのかと葛。

 大切で大好きで、愛おしい、と思う。

 でも、この感情は……恋愛感情とは違う気がする。


『お兄ちゃん、お兄ちゃん!ギュッとしてぇ!』

『優ちゃん、頑張ったね!いい子いい子!』


 僕に数え切れない程の力を、笑顔をくれた妹分達。


 あの子達の笑顔を、幸せを、これからの未来を。

 守って、見届けたい。

 

 今は早く、僕から巣立って行けばいい。

 寂しいけれど、さ。


「感傷的になっちゃったな。こんな所を見られたらまた、サークルの女子に……きゃああああぁぁぁ!!ほのか!いつからいたんだよ!!」

「お兄ちゃん……!!この動画のお姉さん、サークルの女子にそんなに似てたの?!サークルの女子で、あぅあぅ、ぴゅぴゅぴゅっ!ってしちゃったの?!」


 ほのかが、頬を膨らませて、顔を真っ赤にして。

 僕を横から、見上げている。

 ややややや、ヤバい!


「ほのかぁ!ち、違うんだ!まだ、何もしてない!それに、これには深い訳もあってだな……!」

「じゃあ、これからぴゅるぴゅるするつもりだったんじゃん!ほのかがいるのに!ほのかを差し置いてっ!そういうの、いくないっ!」


 ほのかは眼鏡を外して、勉強机に、がんっ!と置いた。


「いや、お兄ちゃんは妹分のほのかや葛をそういう目で見たくないんだって!」

「さっき、葛からチャット来たよ。お兄ちゃん、葛の中の奥で、ぴゅっぴゅしようとしたって!ハート付きだよ!」

「葛!ギガ盛りでトッピングしてくれちゃってるよ!」

「かくなる上はっ!本気で、オシオキです!!」


 髪留めでバッチンバッチン!とサイドで纏め、ほのかの可愛い顔が浮かび上がってくる。


「構想一ヶ月、弱!おっぱいパンと同時に開発されていたお尻グッズMarkシリーズたいこ対抗ーすべく!改良に改良を重ねて生み出されたこのグッズ達、『1番気持ちーの、私のお口だよね?』壱号、弐号……参号!出撃だよっ!!」

「お前ら!絶対に、作戦会議とか申し送りしてるだろ!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る