こんやくはきするにゃ~
touhu・kinugosi
こんやくはきするにゃ~
ここは魔界の片隅にある小さな国、”ケットシー王国”です。
ケットシーは、“長靴をはいた猫”が有名ですね。
「ペルシャ侯爵令嬢、こんやくはきするにゃ~」
トラ・ケットシー王子はひげをぴくぴくさせながらいいました。
きれいなトラ柄の毛なみです。
背の大きさは100センチくらい。
小さなモーニングスーツを着ていました。
いま、貴族学園の卒業式のパーティーが行われています。
きれいなスーツやドレスを着た二本足で立ったネコ達が、王子様にふりかえりました。
「そして、ミケ男爵令嬢とけっこんするにゃ~」
トラ王子はとなりにいたミケ男爵令嬢の腰を引きよせます。
「にゃあ」
ゴロゴロゴロ
小さな、布が少なめのドレスを着たミケがのどをならしながらトラの腕にすがりつきました。
ミケは、つややかで、かんのうてきな、ミケ柄の毛なみをまわりに見せつけたのです。
「ニャア、そんなに、肌を出して、破廉恥(はれんち)ですニャッ」
ペルシャ公爵令嬢が、せんすで口元をかくします。
ぎんいろにちかい白い毛なみ。
顔とにくきゅうしか出ていない、きれいなドレスをきていました。
「どうしてですニャ」
ペルシャがトラに問います。
「真実の愛にめざめたのにゃ~~」
「それに、ペルシャにゃんはミケにゃんをいじめていたのにゃあ」
トラがいいます。
「ネコジャラシでもてあそばれたにゃ」
「ミケのお気に入りの昼寝場所をよこどりされたにゃ」
「鼻の前でレモンのかわをしぼられたにゃ」
「二階から落とされたにゃ」(←基本ネコだ。 三階から落ちても大丈夫。 ミケが窓の外を飛んでいたセミに襲いかかって落ちただけである)
「あやまったらゆるしてあげるのにゃっ」
ミケがいいました。
「そんなことはしてないですニャ」
「このこんやくは、王家と我が家の約束ですニャ」
「ネコ魔王さまは知っていますのかニャ」
ペルシャがすましていいました。
「うにゃっ」
ミケが、耳をふせて、口をあけ、舌を少し出しました。
ポカーンとした表情。
ブレーメン反応です。
ネコ(ケットシー)が、変なにおいをかいだり、うそをついたときにする反応ですね。
「ミケにゃんがうそをついたというのかにゃっ」
トラ王子が、ミケのブレーメン反応をかくすように、彼女の顔を抱きよせます。
周りに変なにおいを出すものはありません。
それを見たペルシャが悲しそうな声でいいます。
「……わかりましたですニャ、こんやくをはきしますニャ」
「わかってくれたか、ペルシャにゃん」
「もうこんやくしゃではないから、ペルシャにゃんと呼ばないのですニャ」
ペルシャは、つんと顔をそむけ会場をあとにしようとした、そのときでした。
「話は聞かせてもらったのじゃ」
小さな羽をばたつかせ、ネコミミ、ネコシッポの少女が飛んできたのでした。
150センチくらいの身長、黒い髪、黒い目をしています。
彼女は、ケットシーが種族進化して人型になれるようになった、”ケットシー・クイーン”でした。
「ネコ魔王さまっ」
「ネコ魔王さまにゃ」
「ネコ魔王さまですニャ」
ニャ~ニャ~とネコ達が騒ぎます。
「ふむ、ミケよ、そなたのブレーメン反応はなんじゃ?」
うそをついていることは一目でわかりますね。
ネコ魔王さまは、空中で仁王立ちをしています。
「にゃ、にゃあ」
ミケが耳を後にねかせました。
「ふむ」
断罪劇もこのまま終わるところでした。
ところがどっこい、ちょうどそのとき国をゆるがす大事件が起こったのです。
「大変ですにゃああ」
帽子に長靴 腰にレイピアをつけた衛士ネコが飛び込んできたのです。
「勇者の襲撃ですにゃああ」
ケットシーはれっきとした魔物。
しかし戦闘能力は皆無。
逃げ足の速さとスキル“マネキネコ”でほんの少し幸運を人に分けることができるくらいです。
勇者相手にひとたまりもありません。
ネコ魔王様も似たようなものでした。
トラとミケ、ペルシャがお互いを見てうなづきます。
「ネコ魔王さま、逃げてくださいですにゃ」
「ここはどうにかしますにゃ」
「勇者は魔王を見たら見境なくおそいかかる、おそろしい生き物ですニャ」
「そうですにゃあ」
「まかせてですにゃあ」
「逃げてですにゃあ」
三人と同じように周りのネコ達もいいました。
「お、お前たち……」
ネコ魔王さまが息をのみます。
「急ぐのですニャア」
「くっ、すまない、必ず帰ってくるからな」
目に涙を溜めながら、ネコ魔王さまがネコ魔王城から飛び去りました。
「さあ、みんなっ、きがえるのですにゃ」
トラ王子が大きな声でいいました。
「「「はいですにゃっっ」」」」
オスネコは執事服へ、メスネコはクラシカルなロングスカートのメイド服へ着替えたのでした。
ケットシー王国の基幹産業である、”ネコ魔王城、ネコ執事・ネコメイドカフェ”開店ですにゃっっ。
ブウオオオオオ(←暴走?)
勇者が四つん這いで口から白い息をはきます。
「魔王はどこだああ」
「魔王はいねがああ」
東北地方の民俗色あふれるセリフを吐きながら、勇者がネコ魔王城の大広間に踊りこみました。
ちなみにハーレム勇者です。
そこには……
「お帰りなさいませ。 ご主人様あ、ですにゃあ」
「お帰りなさいませ。 お嬢様あ、ですにゃあ」
左右にずらりと並んだ、ネコ執事とネコメイド、なのでした。
「まああっ、一人お持ち帰りしてもよろしいですか?」
聖女です。
「か、可愛いっ、使い魔に欲しいっ」
女魔法使いです。
「くっ、可愛いは、正義っ、なんだぜっ」
女荷物持ちです。
「はっ、シロッ、シロなのかっ」
勇者が、メイド服姿のペルシャに言います。
スラム育ちの彼は、幼いころ唯一、白い野良猫に心を許していたのでした。
ネコ執事とネコメイドの大群に骨抜きにされた勇者一行は、三日間ネコ魔王城に滞在し満足して帰っていったのでした。
当然、有料ですよ。
その後、ネコ魔王さまを失ったケットシー王国は解散し、世界中に野良ケットシーが拡散したのでした。
ケットシーたちの可愛さと、スキル”マネキネコ”による幸運で、世界がほんの少し明るくなったのでした。
めでたしめでたし。
こんやくはきするにゃ~ touhu・kinugosi @touhukinugosi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます