22.終わりに

 私の夏の大会には先輩も彩も応援に来てくれた。春にあったことは私も先輩も何も触れなかった。きっと先輩は新しい出会いを探しているか、すでに見つけたのかもしれない。

 大会では1分00秒20まで記録を戻し、私の得意種目の100自は2位に1秒の差をつけて優勝した。

 秋にはスポーツ推薦の枠が正式に来て、彩と同じ大学に入学することになった。ずっと一緒にいたいという思いも当然あるのだが、何よりもこの大学には栄養学を学べるコースがあって、競技と栄養管理を同時に勉強して、いろいろな人を育成できるような進路もアリだろうと思ったのが決め手だ。

 いつ、また体のケガだけではなく心のケガをしてダメになるかもしれないし。その時のために。

 冬、水泳のチームを進学のために離れることになったので、送別会を忘年会を兼ねて開いてくれた。忘年会が終わった後、駅のカフェでお茶をしていると、国崎さんに仙道先輩とカラオケに行くんですがいっしょにどうですか?と誘われたが、あいにく彩と約束があったからまた今度ねと断った。卒業から引っ越しまでにはまだ時間がある。

 カフェに先輩が現れ、気まずい雰囲気もなく先輩もカラオケに誘ってくれたが、断ると向こうも事情を察してくれているようで、また今度ね。と声をかけてくれた。じゃ、燈子ちゃん行こうか、と席を立つと、燈子ちゃんは先輩の腕を抱いて、永野さんまたねとこちらを振り返って左手で手を振って、先輩と歩いて行った。

 先輩、モテるなぁ。と思いながら内心ホッとした。燈子ちゃんが最近、一生懸命勉強している様子があるのは、なるほど、もしかして、先輩と同じところに行きたいのかなと思える。先輩の入った大学は、通信制の子が入るには少し一生懸命勉強しないと入れない。私はメッセンジャーで国崎さんに、勉強頑張ってねとメッセージを送って、しばらく経ってから、スマイルマークの絵文字が送られてきた。


 春が来て、引っ越しが終わって

「じゃ、買い物に行こうか。」

「うん。」

 2人で少し広めのアパートの鍵をかけて、私たちは出かけた。

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ラピスラズリは雨に弱い 綾瀬澪栞 @AyaseMishio

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