涙は私を癒す音楽になる事を私は望む

三日月静

涙は私を癒す音楽になる事を私は望む

音だけが私の頼りだった。

仕事終わりに聞く大音量の音楽。

イヤホンから伝わる音は息苦しい私の呼吸を楽にしてくれる。

仕事のことも、上司のことも、会社のことも、私のことも、何もかも考えなくていい。

いや、考える事を強制的に遮断させてくれる。

これでいいのか?これでいいのだ。そう、こうすれば辛い思いをしなくていい。

何も考えなくていい。ただ、音に耳を傾ければいい。

しあわせ、なんだろうなきっと。そうきっと。

つらい。

終電で家路を辿る途中に突如として切れる音。

電話。

突如として訪れる頭の痛さ。

静まり返ったあたりは私の頭痛を悪化させる。

出なきゃ行けない。

電話に出た、怒られる電話だった。

電話が終わった後、私は泣いた。

幸い乗客は私しかいなかったから、私が泣いてる所を聞かれることも見られることもなかった。

急ごう。早くイヤホンを繋いで、音量を大きくして、音楽を流そう。私の心が壊れる前に。

でも、私の涙は止まらなかった。おかしいな、おかしいよ。

私はずっと泣いていた。気づきたくないけど突きつけられた現実が涙を音楽に変えてしまう。

あぁ、もうダメなんだ私。

電車を降りた後も止まらない涙。

枯れることも知らない涙は音楽すらかき消し、涙が音楽にすり変わるほどだった。

家にたどり着いた私はベッドに倒れ込んだ。

ただ、泣いていた。ずっと泣いていた。

こんなに酷い世界ならいっその事壊してしまおうか、私の頭に突如として浮かんだ思考。

私は何も持たずに、裸足で、家を飛び出した。

この物語は救われない物語。いや、救えない物語。

「助けてなんて言わないから、幸せの音楽を聞かせてくれ」

と彼女の職場のメモに残されていた。


end

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涙は私を癒す音楽になる事を私は望む 三日月静 @hakumukagamiya

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