女神さまが世界創り終わった後いまさら人間になりたいとか言い出したんですけど

ルアン

第1話 人間になりたい

「……人間になりたい」


 宮殿に呼んだ僕に、そんな素っ頓狂な事を、女神キャシー様は突然言い出した。


「えーっと……。キャシー様?それは一体どのようなご意味で……?」


「そのままの意味よ。私は人間になりたいの!」


 ……どうやら聞き間違いじゃなかったらしい。


「いやいや、キャシー様。最近世界が安定してきて、ようやく一息ついている所で何を言い出してるんですか。それに、天界の絶対神ともあろうあなた様があのような生物になる必要はどこにもないのでは?」


「えぇ~いいじゃない!なりたい~!」


「ダメに決まっているでしょう。第一、あなた様がいなくなったら、誰が天界を統括するのですか?」


「そんなの関係ないじゃない!なりたいったらなりたいの!」


 その一言を皮切りに、キャシー様は駄々っ子のように、おもむろに寝っ転がってジタバタし始めた。


 綺麗なブロンドヘアーが見る見るうちにクシャクシャになっていく。


 おまけにドレスもしわくちゃになっていく。


 ……ホントに、毎回誰が綺麗にしてると思っているのやら。


 今から500年ほど前、目の前で駄々をこねてる女神、キャシー様と、その従属神である僕は、多くの協力のもと超大型の魔法を使用し世界を創り直した。


 それから、様々な神を召喚して、色んな生命を創って、世界が壊れないように手配を続けてきて……。


 最近になってようやく落ち着いてきて、疲れを取りたいというのにこの人は……


「なりたい~!なりたい~!」


 ……相変わらずの我がままっぷりである。


 同時に、よくそんな体力が有り余っているなと感心をしてしまう。


 ……ただ、今回言い出した事はあまりにも予想外だ。今までになく突拍子の無い話だから故、理由を一応聞いてみることにした。


「……念のため聞いておきますが、何故人間になりたいと?」


 そしたらキャシー様はバッと起き上がって、


「理由を言ったら人間になれる?!」


 と聞いてきた。


「そんなわけないでしょう。ただ、理由が気になっただけです」


「ちぇ!けち!じゃ、教えてあげないも~ん」


 そうやって今度は、プイっ、とそっぽを向いた。


 別にここで、はいそうですか、と言って帰ってもいいのだが……やはり気になる。


 ……仕方ない、どうにかして聞き出すか。


「……お仕事終わった後に、プリンを用意しましょうか?」


「……」


 まだそっぽを向いている。


「……ショートケーキも付けましょうか?」


「!……」


 あ、少し反応した。


「……分かりました。クッキーも付けましょう」


「……じゃあ言う」


 ちょろいな。


「それで?人間になりたい理由とは一体?」


「あれを見て」


 そう言って、キャシー様が指さしたのは……いつの間にか部屋に置かれていたスクリーンだった。


 そこから、学校のような映像と、恐らくそれの紹介と思える音声が流れてくる。


「バブラン王国国立魔法学園。世界初、そして世界唯一の魔法教育機関です。ここ魔法学園は毎年数多くの著名な魔術師を輩出しており、近年は魔法研究家のエクス・フォーラム氏がこの学校を卒業しました。この学園の入学試験は……」


「……キャシー様。人間界の産物を無許可に天界に持ち込むのは禁止したはずでは?」


「それは……。まあいいじゃない」


「良くありません。それにしても凄いですね、人間の技術は。500年でここまで発達するものなのですか。それにこの設備もなかなかな……」


「そんなことは関係なくて!」


 キャシー様が突然遮る。


 そして、一呼吸おいて、


「私は!この人間たちの!魔法学園に!入りたいの~!」


 と叫んで、ふかふかのベッドにどんと倒れ込んだ。


 ……なるほど、そういう事か、理由は納得した。


 同時に、叶えてあげたいとも少し思った。


 ……だが、今はまだ、願いを受け入れるわけにはいかない。


 ……何とかしてなだめるか。


「……あのですね、キャシー様」


 それとなく、ベッドの隣に腰掛ける。


「今、天界で、いや、世界で一番偉いのは、誰ですか?」


「……私」


「ですね。では、一番強いのも?」


「……それ本人に言わせる?」


「そうですねあなた様です」


 無視して話を進める。


「では、今秩序が保たれて平和な天界も、平和に満ち溢れている世界も、あなた様がいなくなれば統括する者がいなくなり、混乱に陥ることは想像に難しくないですよね?」


「まあ…………。そうだけど……」


「ですね?では、あなた様がしなくてはならないこと、そしてすべきでないことは、言わなくても分かるはずです」


「……」


 明らかに不貞腐れているが、仕方の無いことだ。


 いつもの手慣れた仕草で仕事机に誘導する。


 拗ねられるたびに思うが、全く面倒くさい御方である。


「さあ、それでは本日のお仕事を伝達させていただきます。まずは地底、人間界、霊界の方々との会合を、映像魔法越しに行っていただきます。そしてそこから、書類の最終確認、結界の綻びと魔力気流の乱れの修復を僕と共に行っていただきます。以上ですが、よろしいですか?」


「……」


 相変わらず不貞腐れている。


「よろしいですか?」


 今度はちょっと圧をかけて言ってみた。


「……」


 おおまじか、まだ不貞腐れていやがる。


「応答なさらないと、仕事終わりのデザートは無くなりますが?」


「……分かったわ、やる」


 何とかして仕事に向かわすことができたようだ。


「よろしくお願いします」


 そして身をひるがえして、


「それでは、僕も仕事が立て込んでいるので、仕事場に戻ります。また後でお会いしましょう」


 と言って、宮殿の出口に向かった。


 ……ただ、とも思う。


 世界を創造してから500年。


 目まぐるしい日々のせいで、キャシー様には休む暇が全くと言っていいほどなかった。


 だから、ちょっとは願いを叶えてあげたいと思う気持ちはずっとあるのだが……。


 やはり、まだ無理だ。


 まだまだ世界は始まったばかりで、崩壊の危険性は十分にある。


 第一、神が人間になるなど不可能に決まっている。


 気にするほどのものではないか……。


 そう自分に言い聞かせながら宮殿を出て、雲の上に降り立つと、


「やっぱりフィナンシェも付けて~!」


 と宮殿の方から声が聞こえてきた。


 やれやれ、と思いながらも、


「了承しました」


 と言ってしまう僕なのであった。





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