第3話 奇妙な家


 実に広すぎるこの家は、大広間がバカでかい。体育館かと思うほどデカい。そして部屋の扉一つ一つの間隔が大きすぎる。部屋同士で繋がっているのか…。

 彼はまず最初に台所へと向かった。リビングを出て、すぐ左にある部屋だ。台所というよりキッチンと言ったほうがしっくりくる気がした。例えるなら、外国のセレブの家のキッチンだ。もうここで料理人を四人くらい雇うべきだ。そして椅子が…いや、スツールがカウンターに並べられていた。確かにここでお話はキツイかも。なんて思っていたら、彼がフフッと笑った。…道理で間隔が広い訳だ。

 次は広い体育館みたいな所だ。大広間よりも広い。ここは彼が訓練を受けるときに使用する部屋らしい。不思議なことに、体育館から運動場に、運動場から山に…といった感じで、色々な町並み、風景、天候が変えられるという。広さも自由に変えることができ、色々な種類のモンスターやロボットを出すことも出来る。

 「シュミレーション室だよ。本当にある物とか、本当にいる人とか、場所とかを映し出す事が出来るんだ。勿論、理想の世界もね!あと、その物体にちゃんと触れるし、話すことも出来るから、事件を解決する時とかに役立ててるんだ。物も喋れるんだよ、、凄いよね…!」

 本当に凄い。これを持ってるだけで何でも願いが叶ってしまうだろう。けど、持ち出せたりはしないらしい。唯一の欠点だ。

 次に案内されたのは実験室。ここでは色んな実験をしたりする。当然だけどね。ここもまぁ広い。ざっと20人位は入れる。彼はここで部下達や依頼主と実験や研究をするんだとか。

 「器材とか実験道具とかは全部揃ってると言っても過言じゃないね。一応趣味だから、揃えるようにはしてるんだ。薬品とかはあんまり…いや絶対にイジらないでね!」

 忠告を受けたが、そもそもここに来ることは無いだろう。と思いながら色々見物して、次の部屋へ。

 書斎…かな?大きな机がドドンと設置されていた。壁にはぎっしり本が敷き詰められていた。それも分厚い本。虫やホコリが入る余地も無い程。…取り出すのに大変そうだ。

 「ここは主に調べ物かな。久しぶりにやる仕事の内容とか、初めてやる仕事とかをここで調べ尽くしてやる感じ。まぁ探すのとか大変だし、それ以上に読むのが大変!だから結局は直接聞いたり、過去の資料を見返したりしているんだ…後は何も無いかな。よし、次に行こう!」

 彼も苦労しているんだな。当然か。

 続いて温室に向かった。温室は奥にあった。決して目立たない訳では無いが、見落としてしまいそうだ。だが、私は結構好きだ。温室に入ると、とても自然な香りがした。温室はひとつの家みたいで、キッチンは勿論、ガラス張りのテラス、奥には書斎部屋もあった。中でも一際目立ったのがガラス張りのテラスだった。テラスと言うのかリビングといったほうが良いのか、ガラス張りだから外は丸見えなのだが、灰色の景色ではなく、緑で色鮮やかな景色だった。

こんな所でお茶会を開いたら、たまらないだろうな…。おまけに少し暗めで、とても居心地が良い。そしてガラスから差し込む自然の光がこの部屋を少し明るくさせる。なんて理想の部屋なんだ。

 「ここ、凄い良いでしょ?フフッ…気に入ったって顔してるからさ、笑。僕もここ好きなんだ。やっぱり、ガラス越しに見る植物は最高だよ。アイディアに行き詰まったらここに来るようにしてるんだ。君も、何かに悩んだらここへ来ると良いよ。僕は植物の世話も兼ねてここに来るし笑。いつでも会える。だってこの家、すっごく広いだろう?僕がどこに居るのかなんて、GPSが無いと分からないよ。時には迷子になったりもするかもね…。でも、ここへ来れば僕はいる。何時に居るかは分からないけどね。」

 こんな所に一人で住んでるなんてとても勿体無い。この家はもっと皆で共有するべきだ。私はガラス越しの植物を見ながら思った。

 

 大広間は二階へ続く階段が二つ設置されていた。玄関も両開きだから、すごくお城みたいだ。看護師さんのイメージ通りってやつだ。階段を登って扉が沢山ある廊下に来た。ここは全て寝室らしい。まるでホテル。商売したほうが良いかも知れない。

 「ここはね、たまに兵士とか部下に貸してるんだよ。仕事の都合で、しばらくここで過ごすことがあるんだけど、そのときに貸してる。しっかり掃除をするというのが条件でね笑。あと反対側にもあるんだけど、僕も数覚えきれなくて笑。本当に何でこんな家なんだろうね(汗。」

 …彼はとても仲間思いの仕事熱心なのかも知れない。

「次なんだけど…、ここから下に戻って温室と反対側の奥に通路があるんだけど、そこに行こうか。」

 …広い家はあまり推奨しない。いや、広すぎる家は絶対に推奨しない。掃除が大変だし、移動が大変。自転車が必要だ。すると彼は良いものがあるんだよ!といい、廊下の奥の隅に私を案内した。こんな隅に良いものが有るのか…?自転車じゃないのかと、少ししゅんとしたが、その気持ちを一気に吹き飛ばすように彼が言った。

 「ワープで移動しよう!実は、4つの隅にワープゾーンを作っておいたんだ!移動が面倒だからね!さ、このゾーンに入ってね。」

 そう言うと私の手を引っ張って四角いゾーンへ入れた。

「じゃあ行くよ!」

 と言い、彼は、数あるボタンの中から一つだけを押した。すると、青い光と共に体がフワッと浮いて、瞬きをし終えたあとにはもう目的の通路にたどり着いていた。私はエレベーターのような気持ち悪さが無理だった。一瞬と言えども、不快だった。出来れば自転車が良い…そんなワガママを思っていた。

 「フフッ…。…よし!という訳で、一瞬にしてここへ辿り着いたんだけど、ここからまた歩くよ~。でも、長くはないから大丈夫だよ笑。安心してね。」

彼は優しく微笑んで私を安心させた。

 

 通路を歩いていくとそこはジムだった。…そう、あの筋肉を作る…ジム。通路の両隣に設置されていて、彼はここで体を鍛えて、仕事に出るという。今を見るからに、鍛え抜かれている様子はなかった。…ジムじゃなくてジャムなら良いのに…なんて事を考えていると、玄関らしい扉があった。案の定玄関で、中に入ると靴を置くところもあり、その部屋は明らかに家だった。

 「フフッ…。ここ、不思議だよね。家同士がくっついてるの。しかもつなぐ廊下はジムの通路…。本当に変な家。」

 家の中に入ると、とても一般的な一軒家だった。ここはおそらく裏戸…。扉の横は台所で、食卓を囲むテーブルと椅子が置かれてあった。椅子は八脚。家庭的な家だが、、きっと大家族だ。そうに違いない

 「え、ここの家って勝手に入っていいの?明らかに家庭的だし、八人掛けなんて…。」

 明らかに家庭的。お風呂もトイレもあるし、二階だってある。お風呂とトイレに関しては、お城の方で見かけなかったな。リビングも非常に家庭的、私、庶民からしてみれば、贅沢と感じるほど。庭も付いていて、そこにも植物が植えられていた。

 「大丈夫だよ!ちゃんと僕の家。玄関が二つあるだけだし、ここでしかあんまり生活してないし笑。ここ側の道路を通ったらとても普通な一軒家!あっちを通ったら立派な豪邸!びっくりするよね笑。こんなにデカい家要らないけどね。でも、一応役に立ってるから、助かるっちゃ助かるけど。」

 なるほど。よく理解できないがこれも部屋の一部。ということだな。しかし、こんなだだっ広い家を作ったのは誰なのか、そして彼を住まわせたのは誰なのか。何故こんなに広くする必要あるのか全くもって分からない。出来ることなら、作った人と会ってみたい。きっと何か分かることがあるかも知れないから。

 「あそうだ!しばらくはここの家で過ごすことにするから、玄関間違えないでね!豪邸の方のチャイム押しても出ないからね~笑。…そういえば君、ここの子じゃないんだよね?記憶も無いし、お家とか無くない?どうやって帰るの?!」

 彼は思い出したように言ってきた。確かにそうだ。私も忘れていたが、そもそもここが何処だか分からない状態じゃないか。それなのに呑気に家中を探索して…。バカみたい。

 「ねぇ、その前に、ここの事について教えて欲しいんだけど、いい?」

 「良いよ!すっかり忘れてた笑。えっとね、ここは…」

 『ピンポーン』

 「誰だろう、ちょっとゴメン、待ってて。」

 玄関のチャイムのせいで話を猜疑られてしまった。


 ……。彼を待って五分が経った。遅い。早く話の続きが聞きたいのに!彼は誰かと喋っているようだった。我慢が出来なかった私は彼の元へ足早に向かった。そこから聞こえてきたのはとても怒っている男性の声だった。

 「星嫁(ほしか)は居ないのかと聞いているんだ!」

「待って下さい!星嫁さんというお方は存じ上げません!とにかくここには居ないです!」

「っざけんな!どうせ隠してるんだろ!」

「なんのことですか?!知りませんよ!」

 かなり言い争っているようだった。彼の後ろから顔を出して相手を見た。どこかで見たことのあるその顔を、私は思い出すことが出来なかった。するとその人と目が合ってしまった。

 「星嫁…!ほら、やっぱり居るじゃねぇか!嘘つきやがって!このっ…!」

 その男性が腕を上げて殴りかかろうとしたが、彼は、その男性の腕を掴んで防いだ。その時の彼がとてもかっこよかった…。 即視感があるが、思い出せなかった。

 それより、星嫁…?誰だろう。きっと誰かと勘違いしている。私はすかさず人違いです、と指摘した。

 「はぁ?アンタ自分の名前も忘れちまったのか?ダリ先もアンタもいかれちまったな?そりゃ皆居なくなったもんなぁ?!」

 (この男は何を言っているのか。ダリも困った顔をしている。この人、ダリの事をダリ先って呼んでいるの?だとしたら何か繋がりがあるかもっ!)

「あ、あの。」

「あ?何だよ」

 「生憎ですが、私達は記憶を無くしてまして、、私が星嫁って名前なのかも分かりませんし、貴方のこともわからないんです…!パッと見たときに、懐かしくもどかしい気持ちになりましたが…やっぱり思い出せないんです!貴方が私達の事を知っているなら、私達の事を、それからこの家の事を、詳しく教えて欲しいんです…!」

 私が話しているとき、男の怒りの表情は次第に悲しみの表情に変わっていった。その一瞬で何かがつっかえる気持ちになった。

 「僕も同じで、貴方が僕の名前を知っていることが気になるんです。どうして僕の名前を知っているんですか?あと、星嫁って、本当にこの子の名前なんですか…?」

 ダリは心配そうに男を見ていた。男は自信なさげになり、ため息をついた。そして口を開いた。

「本当にいかれちまったんだな…。あんま気が乗らねぇが…。…じゃ、自己紹介からするぞ。…俺はボーイ。趣味は馬の観察だ。あ、因みにそこのダリ先よりも一個年上だ。」

 ボーイ…。まだ分からない。私とはどういう関係だったのだろうか。

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