僕と俺は、誰も救えない。

きみとおさる

第1話

命を落とさせる。

命に救われる。

命を無くす。

命、

命、

命って。

命ってなんだよ。


「事故を無くそう!

 命を救おう!」


学校に向かう途中、

こんな無責任なポスターが貼ってあるけどさ。


命ってそんなに大事なの?

人間ってさ、動物は気楽に殺すのに、人は殺さないんだよね?

それってどうなの?

動物も命でしょ?

みんなおんなじ命なんでしょ?

気持ち悪い蜘蛛とかゴキブリとかはすぐに殺すのに、人間は大事にするんでしょ?

意味が分からない。


俺は殺人鬼の息子として生まれた。

母親も父親も殺人鬼。

二人で合計30人は殺しているだろう。

でも、誰にもバレたことはない。

すごいよね。

俺だって頑張ってきたもん。

殺してないけど。


俺、皆に生意気って言われるんだけどさ、

そんなに?

正論言われたからたじろいでるんじゃなくて?

人間の方がよっぽど生意気で理不尽だと思うんだよね。


てかさ、俺、殺人鬼の息子なわけじゃん?

だから、たぶん人間の感情無いんだよね。

家にはいつも死体が転がってるし、

救急箱には毒がある。

そんな環境が当たり前だったから、こんな感じなわけ。

うぐっ、あいつが…

もう時間かよ…


…ん。

はー、やっと抑えられた。

さっきまで何か言ってたのは、

まあ…僕は「クロ」って呼んでるんだけど、

僕の二重人格の片割れ。

僕は「シロ」。

実は、殺人鬼の両親を支えてきたのはだいたい僕のおかげ。

クロは、悪魔の人格。

僕、シロは、天使の人格。

そう言われた。


学校にいるときは僕。

家にいるときはクロ。


そうしたほうが都合がいいから。

僕たちはそうやって生活している。


人間も、自分の都合がいいように生活しているらしい。美味しそうなご馳走には、必ずと言っていいほど動物の肉が出てくる。

食事の最初には「いただきます」って言うけど、きっとご飯をいま食べると、体に認識させるために言っているようなものだろう。


さあ、学校が近づいてきた。

これから学校が終わるまで、クロ、出てこないでよね。


「おはよーございまーす」


「わ〜!白兎はくとくんおはよう!」


「おはよう、梨乃」


学校に着くと、真っ先に梨乃が話しかけてきた。

梨乃は、僕と一緒でクラスの学級委員だ。


学校に着いて、靴箱に靴を入れようとすると、

手紙が入っていた。

またか。これで4回目だよ。


「白兎くん、また告られるの〜?

 モテモテすぎだよ〜」


「まあね〜、僕みんなと違うからね〜」



僕は、学校ではモテモテらしい。

可愛い系男子ってよく言われる。

誰にも言ったことないけど、僕、人間じゃないのにね。


あと、僕、意外と賢いんだよね。

ずる賢い両親の遺伝もあって、物事の理解が早いらしい。

だからか、梨乃と一緒に学級委員をしている。


葉月中学校2年3組、僕の教室に着くと、すぐに用意をして、さっきの手紙を取り出した。


「白兎くんへ

 おはよう。

 急にお手紙ごめんね。

 今日の放課後、体育館裏に来てください。

 待ってます。」 


差出人は分からなかった。

よっぽど自分に自信がないのかな。

そんなんじゃあ僕、つきあってあげないよ。

ま、人間じゃないから恋心とかわかんないけど。

とりま、放課後まで待つかぁ


〜放課後〜


よし、体育館裏に着いた。

誰かな〜


「あ、白兎くん、来てくれたんだ。」


「…ん」


意外にも、差出人は梨乃だったらしい。


「で?何の用?」


「あ、あのっ」


「…」


「私、白兎くんのことが好きです。

 付き合ってください。」


やっぱり。何か告白って1パターンしかないよね。

これまで告白を断ってきたけど、今回は付き合ってやってもいいかな。


「まあ、いいけど。」


「…やった!」


「てかさ、付き合うって言っても、何をやるの?」


「…う〜ん、確かに何だろう…」


「まあ、後で考えよ。僕、今日用事があるからもう行くね。じゃ。」


「うん!」



ぶっちゃけると、用事があるというのは嘘だ。

早く家に帰りたかった。

クロが出たがっていた。

だから、さっきの場を離れるために嘘をついた。

さ、クロ、出てきていいよ。


はあ〜。やっと出てこられた。

学校ってのもひどいよね。

社会に出てもどうせ使わない知識を叩き込んで、無駄な時間を過ごさせる。


大人はいいよな。

まあ、きっと今みたいな理不尽を乗り越えて大人になったんだろうけどさ。


人間って、人間を支配して過ごすよね。

自分の得のために。

人間って目の前のことしか見ずに行動するから失敗する。

まあ、きっと俺らの親は、そんな人間を憎んで人殺しを始めたんだろうな。


まあ、そんな哲学的な事考えたり、人間をやめたりしてる俺らにも、ついに任務が来た。


家に着くと、珍しく親父が帰っていた。


「おお、白兎、帰ったか。」


「ああ。」


「お前に一大ニュースがある。」


何だろう。ドキドキする。

とても楽しそうな予感がする。


「お前も、ヒトを殺してみないか?」


〜第2話へ続く〜

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