Epilogue .怪異の原因
LEDの懐中電灯を引っさげて天袋から天井裏に渡る。押入れの中は予想通りリフォーム済みで綺麗だったが、天井裏も予想外に埃はたまっていなかった。
その代わりに妙な生活臭が漂い、3年間のうちにこの女がどこからともなく手に入れたのか、毛布やら雑誌やらなんだかよくわからないものが溜め込まれていた。使用者が女性だからかそれなりに綺麗には片付いている。
結局のところ、この家には俺に嫌な予感をもたらすもの自体は存在するのだ。何となくその場所はわかる。だがライトを当ててもよくわからない。
「何してんの?」
「この柱のところ」
「うわ。何これちょっと気持ち悪」
「何がある?」
「何ってカタツムリ? でも違うかも。尖った巻貝? 白くて変な色」
巻貝?
ともあれ俺が見えずに太郎が見えるというのなら、その貝が俺の認識にエラーを発生させているのだろう。蛤は蜃気楼を吐くというが、そういう類のものかもしれない。それで太郎はその超絶な退魔力で、貝のもたらすエラーの影響を受けない。だから普通に見えるのだ。全く変な話だ。
「それが気持ち悪さの原因だ。捕まえろ」
「ええ、やだよ気持ち悪い」
「残念ながら俺には見えないんだ」
「またまた。俺をからかってるんでしょう?」
「そっちのお姉さんにも見えないよな、ここにいるカタツムリ」
「あの、何か……いるのでしょうか」
「……本当に?」
太郎は随分不審げな顔をしながら虚空から何かをつまみ、そこら辺にあった瓶にいれる。俺には透明な瓶にしか見えないが、たしかに気持ち悪さは柱から瓶に移っていた。
「よかったな。これで解決だ」
「解決? 何が? お姉さんは人間で、カタツムリを捕まえただけでしょう?」
「けれども大家の困りごとは解消した。今後この家で変な物音はしない。役に立ててよかったな」
「本当に? 全然スッキリしない」
それで翌朝、草刈さんを呼んで屋根裏に人が住みついていたと話す。
草刈さんは随分驚いていたが、女は身寄りも行きどころもないらしいから、草刈さんがしばらく面倒を見ることになった。
「まぁ、お祓いとはちょっと違ったけど解決してよかったよ、本当に。ありがとう、太郎ちゃん」
「お祓いもしたもん」
「そうだね、太郎ちゃんよく頑張ったよ。格好よかったよ」
太郎は近所の人間には孫のように可愛がられている。
「むう。そうだ、草刈さんこれ見える?」
「瓶? 何かいれるのかい?」
「見えない? 小さいの」
「なんだろうねぇ。老眼ではないと思うけどね」
草刈さんは目を細めたりしていたが、それはやはり太郎にしか見えないらしい。
それで土御門神社には太郎にしか見えない巻貝が住み着き、瓶に入れられた葉っぱがたまにパリパリと自動的に欠けていく奇妙な姿が見られるようになった。
「でも俺がお祓いしたんじゃないじゃん」
「ちゃんと祓っただろ、そのカタツムリ」
「瓶に入れただけじゃん」
「お前にしかできないことだよ」
「やっぱり皆で俺をからかってるんでしょう?」
「信じるかどうかはさておき、解決はしただろ。女の人見つけたしな」
「う、うん」
太郎はまた随分腑に落ちない顔をしていたが、それからしばらくしていつもより大分安い金額が太郎の口座に振り込まれたそうだ。
ともあれ太郎が初めて自らの手で
了。
除霊始めました ~ぽんこつ陰陽師土御門太郎 Tempp @ぷかぷか @Tempp
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