仕合わせに触れる

風と空

第1話 忘年会 それぞれのカタチ


 町内会館を貸し切って商店街振興組合の忘年会の日。

 商店街店主達が集まり、町内会長が音頭を取って始まった。


「今年も厳しかったなぁ」


 酒屋のげん(54)が隣りに座る豆腐屋のしげる(53)に話しかける。


「まぁ、それはどこも一緒さ。だが源、今日くらいは良い事を話そうや」


「ま、そうだな。でも面白え事と言ったら和菓子屋のとこだろうよ。なぁ、国?」


 源は、向かいに座る和菓子屋の店主 国昭くにあき(57)と何故かいる赤毛の青年ジェイク(23)に目を向ける。


「ん?ああ、コイツしつけぇんだ。諦めないしよぉ」


 苦虫を潰した様な顔をしながら酒を煽る国昭。


「ハーイ!ソノタメニニホンキマシタカラ」


 ちゃっかり自分もお酒を飲んでこの場に馴染んでいるジェイク。フレンドリーな性格もあって、今では商店街に溶け込んでいる。


「見てるコッチは面白かったがなぁ。外掃除に出てきた国昭の前に土下座して「ヤトッテクダサイ」だからな」


「ああ、酒屋は国んとこの真向かいだったか。俺の豆腐屋みせはちょっと離れてるからな。見れなかったんだよなぁ。話はすぐ届いたけど」


「ったく。見てたんなら助けろってんだ」


 源と繁がカラカラと笑いながら話す向かいで、国昭の表情は苦虫を潰したまま、テーブルにある酒をコップにつぐ。因みにこの男この表情が常である。


「オヤカタノワガシスゴクオイシイネ。デシニナルノハトーゼン!」


 朗らかに笑うジェイクは国昭の肩を組み、もう片方の手で空のコップを高く掲げる。


「だー!テメェは弱いんだから飲むなって言ってただろうが!」


「オヤカタソレハナイデショ」


 向かいの席で戯れ合う二人を見て、しみじみ源が話し出す。


「まぁジェイクが居てよかったよ。国昭腕は良いが、接客がなぁ…… 」


「言えてるな」


繁も同意する位の国昭の和菓子屋が続けてこれたのは、一重に地域の付き合いや組合の助けがあったからだが、今年は違う。


「…… まぁ、助かってるがな」


ボソっと言う国昭も認めているジェイクの働きで、客足が伸びたのは皆も認めている所だ。


「オヤカタボクモタスケラレタ!チシキモオシエテクレタシ、マチガッテルトコロfollowシテクレタ。ソレニゲンサンヨクボクノコトソウダンニノッテクレタ。シゲサンサシイレヨクシテクレタ。ニホンジンヤサシイヒトオオイデス」


ジェイクの言葉に酒が更に旨くなったのか、ご機嫌に飲み出す三人。人の良い集まりなのだ。


余談だが繁の元にも見慣れぬアメリカ人が訪れるのももう少し。商店街はまた新たな新人を迎えて、賑やかになっていく。

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