白羽姉妹は期待する
漫画喫茶の帰り道。
予定ではこのまま家に直行だったのだけど。
唯が「行きたいところがある!」と言い出したので従うことにした。
歩いている方角は、駅方面。家とは反対の場所だけど、さして遠くない。
「寒いね、お姉ちゃん」
唯の声が、周りの音に紛れて私の耳に届く。
私は「そうだね」と返し、素っ気なかっただろうかと思い「もうすぐクリスマスだからかな」と付け足した。
「そっかー。でも、お姉ちゃんの手は温かいね!」
唯は嬉しそうに言った。
カバンを漁れば手袋が出てくるというのに、私たちは手を繋いでいた。
先の漫画喫茶で過ごした時間のせいか、手を繋ぐという行為を、不思議と特別なものと感じていた。
唯は私の手を温かいと言うけど、唯の手も十分に温かくて、柔らかかった。
「……うん」
何に対する頷きなのか、分からなかった。
私の足取りが軽くなって、唯の横顔が横目に見えた。
※
「よし! 着いたよ! ここ!」
最終的に立ち止まったのは、駅の前。
より正確に言えば、巨大なクリスマスツリーが飾られている場所の正面。
色鮮やかな装飾が施されており、キラキラと輝いて、目を奪われそうな美しさだった。
「クリスマスが近くなると飾られるから、見てみたかったの!」
「あぁ。そういえばそっか」
言いながら、私は不意に思い出した。
クリスマスは一週間後の土曜日。もう、すぐそこだった。
「綺麗だねー」
「……うん。そうだね」
クリスマス。なんてキラキラしている文字面だろうか。
毎年、毎年。その日が近付くに連れ、何を貰えるかって楽しみにしていたっけ。
だから今年も、性懲りも無く期待するんだろうなぁと、心のどこかでそう感じていたのに。
でも違った。クリスマスが近付いても、胸は踊らず、期待も芽生えることを知らなかった。
「クリスマス、何しよっか!」
唯は快活に言い放つ。
一見、屈託の無い笑顔の様だったが、細めた瞼の隙間から見える彼女の目は少し悲しげだった。
笑い返してみたが、頬の感覚は固い。途端に私に虚しさが襲った。
お互いに。その日は何も特別では無いのだから。
……あぁでも。クリスマスに、もし唯が何かを期待しているのなら、
「……まぁ。映画でも見て、美味しいものを食べて、最後にチョコケーキを食べて、一緒に寝よう」
私は、明るい未来を期待したい。
笑ってみると。意外とすんなりと頬が緩んでくれた。
これなら唯も満足だろうと、彼女の返事を待った。……のだが。
「いや、ショートケーキがいい」
眉がピクリと反応する。
いや。チョコケーキは譲れない。
だから言い返して、少しだけ言い合いになってしまった。
でも、その時間は、悪いものには思えなかった。不思議だ。
姉妹の言い争いなんて、普通は不毛で、価値が無さそうなものなのに。
その理由は──探る必要無く、こういうことなのだろうと、すぐに分かった。
私の家に、サンタはもう来ないけど。
それでも唯は、変わらず傍にいてくれるから。だと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます