第三章 第125話 諏訪樹の咆哮
「わ、私はこの人たちをこっ…………こ、こ殺すべきだとお、思います。出来れば、
樹たちからは見えなかったが、そのあまりにも皮肉に満ちた光景に、
執行部と
「えーっと、
ここで慌てた様子で
「諏訪さん、加藤さん。あなたたちは本気で、人を殺す決定をするつもりですか?」
偶然にも、名前だけ入れ替わっただけで、かつて自分がした発言をもう一度繰り返すことになった彼女は、果たして樹たちの意図を見抜いていたのかどうなのか。
しかし樹は、少なくとも表面上は平静を
「うーん、どうっすかね。
「……」
樹の考えが今一つ読めず、響子は
「そもそも
名指しされた椎奈
解釈によっては、龍之介たちを殺せと言われたようにも取れるので、当然の事かもしれない。
彼女の表情に気付いた樹は、若干
「あ、いやいや、椎奈せんせーに
「ふーん……ま、いいけど」
冗談か本気か分からないが、とりあえず葵が
「まあそんなわけで、鏡せんせーたちを無理やりどうこうするってのはちょっと出来ません。でも……少しは分かってもらえたっすかね?」
「……?」
誰に対しての問いかけなのか――曖昧な物言いに龍之介はもちろん、
その様子に、ほんの数秒だけ樹は軽く口の
「――何をポカーンとバカ
突然、それまでとはまったく違う、激しい口調で、樹は大声を上げた。
その
「あんたらに言ってんすよ! 執行部のあんたら全員に!」
まず龍之介、次に純一、最後に真帆と、普段の彼からは想像できない、鋭い視線を樹は順番に突き刺していった。
最後に英美里の
「かつてあんたらが、どんだけ異常なことをしでかしたか! さっき教頭せんせーも言いましたけど、仲間を殺す提案をして! それに賛成するとか! しかもそれが
誰も口を
挟みようも、ない。
「僕に言う資格がないとでも言いたそうなツラぁしてるっすね。そんなこと、あんたらだけには言わせないっすよ! 校長せんせーを殺し! 八乙女せんせーを
樹の
「挙句の果てには、何すか!? グラウンドで
先ほど響子が
「さっき教頭せんせーが、あんたらを『奴隷商人』と言ったっすよね! それを八乙女せんせーのことを持ち出して、上手いことごまかしてから僕たちに対する反撃材料にしてましたけど、あんたらが校長せんせーを害したんなら、そのこねくり回した理屈は全部前提が崩れて意味がないんすよ!
止まらない。
「『パンドラの箱』とか、ホント、やり口が汚いって言うか、こっちに
まだ、止まらない。
「おまけに結局のところ、日本に帰る方法だってあやふやなままっす! 確かに貴重な手がかりなのかも知れませんが、それがホントに実現するのか、いつ実現するのか全然分かってないわけっすよね!? それに! もし実現したとして、連れ去られた瓜生せんせーたちも一緒に帰すつもりなんてないでしょうに! そんな選別をする権利を、あんたら一体いつどこで誰に与えられたって言うんすか!? 執行部にそんなもん与えた覚えはないんすけどね!!」
ここで樹は、視線を反執行部の面々へ向けた。
「今から言うことは、あくまで僕個人の考えっす。それでも鏡せんせーたちに乗っかって日本に帰りたいって人は、どーぞそうしてください。僕にそれを止める権利はないっすから。でも僕は、こんなに犠牲が出ているのに、その人たちを踏み台にして日本に帰って、
誰も、何も言うことが出来ない。
「鏡せんせー、僕は今後、あんたらに
「……」
「――――執行部みんなで、
ようやく、樹は止まった。
睨みつけたまま、じっと龍之介の反応を待つ。
そして、十秒ほど
「――我々にそれを呑む義務があると思うのかね?」
「まあ、そう言うでしょうね。分かってたっすよ」
「ほう……で?」
「ただでとは言いませんよ。僕も好き勝手言わせてもらいましたから、サービスってとこっすかね」
「……サービス?」
「ええ、そうっすよ」
先ほどまでの岩を砕く激流のような口調が嘘のように静まり、穏やかとも言える表情に戻って樹は答えた。
「――――ボイスレコーダーの内容は、誰にも言わないと約束しますよ」
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