第三章 第126話 要注意な男
「――――ボイスレコーダーの内容は、誰にも言わないと約束しますよ」
突飛すぎて、彼の真意を理解できる者は、その場に誰もいなかった。
――ただ一人を除いては。
正面に座る
☆
遺書の存在については、龍之介は
しかしそれは、
肝心の四通目――遺書の発見者、つまりは
そして、真白はついにその
当然、その内容も不明なままである。
さらに、真白がその内容を把握しているのは当然として、もしかしたら
それを踏まえての「プランC」発動だったわけである。
乱暴に言えば、すべて力で押し潰す――そういうこと。
龍之介としては油断していたつもりはなかったが、現状で打てる手はすべて打ったということで、ボイスレコーダーのことは一時的に思考から外してしまっていた。
(ボイスレコーダー、だと? なぜこの男が……)
胸中の動揺を、表に出さないようにするだけで精一杯だった。
落ち着かねばならない。
ボイスレコーダーの内容が分からない以上、状況的に唯一の急所であり、アキレス腱になっていることを悟られてはならない。
諏訪にも、他の者たちにも。
「ちなみに、聞いておきたいのだが?」
「何すか?」
とりあえず声は震えていない。
「それは執行部を追放する、という意味と
「その通りっすね」
「
「まあ、正直言ってそういう気持ちもなくはありませんけど、さっき言ったことが理由のすべてっすね。平たく言えば、これ以上ついていけないってことっすよ」
「我々を追放することの意味を、正確に理解しているのかな?」
「意味?」
諏訪は首を
言わなければ分からないのなら、まだまだ考えが浅い。
「現在、我々『
「日常生活……すか? そりゃ転移してからこっち、みんなで頑張ってきたからじゃありませんか?」
「それはもちろんそうだ。しかし、ただ頑張るだけではどうしようもないこともあるだろう。実際、一時的にだが危機的状況に近いところまでいったこと、覚えていないのかな?」
「危機的? ……ああ」
気が付いたか。
「もしかして、食料のことを言ってんすか?」
「その通りだ。あまり直視したくない現実なのかも知れんが、現状として我々の食料事情は完全にザハドに
「……」
「そして、その食料を我々に供給してくれているザハド側の担当者が、横に座っているオズワルコスさんだ。そして執行部は今、食料以外のことについても彼と緊密に連携を取りながら進めている」
露骨に嫌そうな表情をしている。
こちらの言いたいことは、とりあえず伝わっているようだ。
「つまり、あれすか? 執行部を追い出せば、今までみたいに食料をもらえなくなるって言いたいわけっすかね?」
「理解が早くて助かるな。ザハドとの関係が
「そんな!」
声を上げたのは、
彼女の戦闘力は要注意かも知れんが、所詮は個人の武勇に過ぎん。
対処の方法などいくらでもある。
それに、
ザハド側の単純な好意で贈ってもらっているとでも思っているのだろうが、このような異国の地で、どうしてそこまで
私には理解できん。
平和ボケした日本人らしいと言えばそうだが、教師ということも関係しているのかも知れない。
学校では
「実際にザハドがここまで討伐隊のようなものを送り込むかどうかまでは分からないが、仮にそうならなかったとしても、
椎奈だけではなく、花園さんや教頭さんまで
領主が兵隊を送るとまでは言えないが、レアリウスは別だ。
先ほどのグラウンドでの
大体、追放
やはり、浅い。
しかし――――
「そうっすかね。僕はちょっと疑問っすけど」
この男――諏訪は、要注意だ。
大して目立つ男ではなかったはずだが。
しかし、立場が人を作るということもある。
ここに来て
「担当者はオズワルコス
「……」
「まあでも、それもやってみなくちゃ分からないことだし、出来ればこのまま援助してもらえるに越したことはないっすから……その辺は追放された
虫のいいことを、とも思うが、恐らく分かった上で言っているのだろう。
「そんな都合のいい要求を、なぜ我々が呑まねばならんのだ?」
「だからそこはほら、さっき言った交換条件でどうっすか?」
そして何より、これだ。
ボイスレコーダー。
知る者はすべて、消す。
「ちょっと待ってください!」
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