第三章 第122話 美童
(教頭せんせーが、とうとう言った……)
もちろんこれまでにも、疑わしきを本人にぶつけ続けてきた。
その
それはもちろん、樹たちが突き付け続けてきたものが状況証拠だったから。
決定的にクロだと断定するには、少々力不足なことが否めなかった。
(でも、これは違う)
まだ自称とは言え、実行犯自身の自白なのだ。
重みも説得力も、違う。
決して流されまい、と。
客観性を失うまい、と。
それでもそんな、ある意味意地の悪い姿勢を
英美里の告白に、嘘は混じっていない。
自責の念から真実を吐露しているのだと、そう思えてならない。
しかしここで
樹は、英美里の次の言葉を注意深く待った。
他の者たちも、同じように
「……それは――――――」
頭をゆっくりと上げながら、ほとんど
しかしその視線は、まだ床に
恐らく彼女自身、自分が求められているものをはっきりと自覚しており、
そのあまりの重大さに、もしかしたら最後の一歩を踏み越えられないかも知れない――その場の誰もがそう考え、危惧していた。
英美里の右腕が、のろのろと上がる。
そして、ゆっくりと
「あの、人です」
校長の席に座る、一人の男。
「――――
男は、
◇
(そろそろ出番か?)
とは言え、朝陽との戦闘で負ったダメージまですぐに回復するわけもなく、鍛え上げた身体のあちこちで痛みが声を上げている。
とくに後頭部は、朝陽の最後の攻撃で意識を飛ばされた
(くそ……あんな子どもにやられちまうとはな……)
痛みに思わず顔を
しかし、彼の周りにいる者たちからは、何の反応もない。
(それにしても……何ともシュールな
そう。
校長室にいるのは、魁人
楕円形の大きなテーブルを、
彼らは魁人がこの部屋に入ってくる前から、
いくら
表情もまるで見えず、ただ何かを待つようにその場に立ち続ける彼らは五名。
性別も正確には不明。
体格から何となく判別できないこともなさそうだが、確認することに特段の意味を感じられない。
そもそも、魁人は
この地に骨を
執行部副部長として、ザハド側との話し合いの席のほとんどに魁人は出ている。
その際の通訳は久我純一だったり、ヘルマイア・オズワルコスだったりするわけだが、出席するたびに魁人は必ず確認していた。
――――
☆
少々
それは大げさではなく、物心がついたころからそうだった。
彼が
それは幼稚園に通うようになっても変わらなかった。
いや
自分と一緒に遊ぶのだと、複数の園児が魁人の腕を引っ張り合うと言う、マンガのような出来事が日常茶飯事として起きていたのだ。
魁人が小学校に入学すると、
教師たちも、あからさまな
しかし、そんな周囲を相手に当の本人はと言えば――――――クールな態度を貫いていたのだった。
決して、
隣りの席の子が落とした消しゴムを拾うだとか、休み時間に誘い合ってグラウンドへドッヂボールをしに行くだとか、普通の小学生らしい振る舞いはしていた。
魁人が超然とした態度でいたのは、
そして、その原因は……彼の「姉」にあった。
魁人の
カタカナではあるが本名であり、
年子と言えば、一般的に同じ母親から生まれた、年齢が一歳差の兄弟姉妹の関係を
一学年差、二学年差、そして同学年の年子である。
細かな説明は省くとして、ミラノと魁人の場合、年齢差が一年一ヶ月の二学年差の年子ということになる。
魁人にとって、ミラノは唯一無二の特別で、異質な「女性」だった。
友人関係はもちろん、彼の両親も親戚たちも魁人を溺愛していた。
しかし実の姉であるミラノだけは、幼少の頃から不可解なほど魁人に対してフラットな態度で一貫していたのである。
フラットと言うからには、特別
普通の
それなのに、両親や友人たちが示すような過剰な親密さを、魁人には一切向けることがなかったのだ。
自分に対する態度が、姉だけが
そんなミラノに対して、魁人の情緒は振り回されて、かき回された。
家族と言う一番身近にいるはずなのに、どうにも手の届かない存在。
端的に言えば、特定の彼女を作ってみたのである。
小学四年生の頃だった。
最初はよかった。
小学生とは言え、彼氏彼女という特別な関係はそれなりに新鮮だった。
しかしほどなく、魁人は大きな失望を味わうことになる。
相手の女子が、彼を束縛し始めたのだ。
具体的には、魁人に対して「特別」を求めるようになった。
これも
彼にとっての「特別」を求めてのことから始まったのに、自分の
関係解消に多大な苦労をすることになった魁人は、それ以降、特別な「彼女」を作ることを
それでも、彼に
そして――――ミラノも何も変わらない。
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