第三章 第111話 傷
「
グラウンドで交わされた
「体調、ですか。それなら仕方ないですかね。分かりましたけれど……」
しかし、何か言いたげな余韻のようなものを残す語尾を、響子が
「椎奈さん。何か言いたいことがあるのなら、遠慮しなくてもいいのですよ」
「あ、はい。壬生さんには直接問い
「そうですね……」
「それも確かに、非常に大きな問題と言えますね、鏡さん」
「……」
「黒瀬さんが排除するのであれば、彼女が
沈黙する龍之介に一瞬だけ視線を戻すと、響子は一同を視界に入れて続けた。
「では先ほどの話に戻ります。純一さんや秋月さんからは明確な回答をいただけませんでしたが、私は執行部が何か大きな秘密を抱えているのではないかと考えています。 ――
「ひっ……」
彼女の隣りに座っているはずの
「あなたにも同じことを問い掛けましょう。英美里さん、あなた――――何か隠しごとがあるのではないですか?」
「! ……」
英美里の動揺を、その場にいる全ての者が見ていた。
それが何を意味するのかを、雄弁に物語っていることは明白だった。
しかし――
「橘さん、さっきから執行部の面々に密約やら秘密やらがどうのと聞きまわっているようだが、何か証拠でも持ったうえでのことなのかね」
英美里が口を
そう来るだろう、と予期していたように響子は答える。
「あなたが答えないから、皆さんに尋ねていたまでですよ、鏡さん。今のところどなたからも満足な答えをいただけていないので、再度『
「秘密などない」
響子の台詞に
「報告していない
「なぜ私たちに報告がないのですか?」
「単純にタイミングの問題に過ぎない。
「その『然るべき段階』とは?」
「報告すべき段階、だ」
「何だか堂々巡りなような……それなら」
声に
「
「なるほど……確かに一理ある。ならばどうするかね。改めて執行部からの報告会を
「……」
今度は、響子が黙る番だった。
彼女の感覚としては、それなりに追い込むことが出来ているように思える。
もちろん、この男がちょっとやそっとで
ならば、この発言は
多少の不気味さを感じながらも、響子は言った。
「本来ならば、全員が揃っている場所で改めるのが
思いもかけぬ響子の強烈な言葉に、龍之介が苦笑した。
一同も思わず息を呑む。
「尋問とは……この場は取り調べか? それとも裁判なのかね」
「お好きなように
「賛成します」
「私も賛成です」
真っ先に賛意を表明したのは、
二人に続くように、
はっきりと追及される側となった
「ふむ……まあ、
この態度に根拠があるのかないのか、どのみち問い詰めながら明らかにしていく
「それではお言葉に甘えまして。まずはもしかしたら一刻を争うことになるかも知れない、
「いいだろう。だが、こちらも繰り返しになるな。行き先は聞いていない」
「……」
「
「レアリ、ウス?」
「そう。ただ、その場所がどこなのかについて、私は聞いていない。今のところ、特に知る必要もない
「……彼らの安否は?」
新しく得た情報を深掘りしたい気持ちを抑えて、響子は最も大事なことを再び問い掛けた。
不敵な笑みを浮かべて、龍之介は答える。
「今現在ここにいる私に、それを知る
「たとえリアルタイムで追うことが出来なくても、あらかじめ何らかの取り決めが
「それを指して、さっきから『密約』と言っているのかな。確かに受け渡しすることは
「な……!」
龍之介があまりに事もなげに言うので、一瞬、大したことではないように思えてしまった響子だが、それが大きな間違いであることにすぐに気付いた。
「
「あ、あなたは……」
あまりの
他の者たちも、あまりの衝撃で石のように固まってしまっている。
「あなたは! じ、自分が何を言っているのか、分かっているのですか!?」
「もちろん」
「あなたがやったことは、いわば『人身売買』じゃないですか!」
「なら聞くが」
声を
「最低限の荷物だけ持たせて、
「え……?」
「当然知る
「それは……」
八乙女涼介の、追放――。
これまでずっと、誰に恥じることのない言動を心掛け、実践してきた橘響子の心に、ごく最近
「それ、は……」
それは
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