第三章 第110話 追及
修羅場とも言える職員室に入ってきたのは、
オズワルコスと面識がある学校勢の者は、意外と少ない。
定期的に顔を合わせていたのは、かつての外交班の面々だが、皮肉なことに所属していた八名の班員は、今は純一を除いてここにはもういないのだ。
そんな人物の突然の登場に、当然のことながら戸惑いの空気が生まれる。
しかし、一緒に入室してきたのが純一と真帆だったこともあって、戸惑いはすぐに不穏なものに変わっていった。
全員の注目を集める中、純一と真帆は室内の雰囲気を察してか、腰をかがめ気味に
オズワルコスは、パイプ椅子を
その様子を、
「――それで……何だったかな?」
落ち着いた声で沈黙を破ったのは、龍之介だった。
その態度に響子は大きく目を
「まさか、これまで私が話したことをお忘れになったわけではありませんよね? 混乱されているのかも知れませんけれど、気をしっかり持ってくださらないと困ってしまいますよ」
「……む?」
響子らしからぬ、挑発的な物言いだった。
「この場に先ほどの三人が現れたところで、糾弾対象が増えただけのことです。彼らのことは
そこまで言ったところで、響子は視線を龍之介から外し、黙って様子を見守っている
「皆さんにも言いたいことがあるとは思います。そもそも先ほど鏡さんが仰っていたように、私たちがこの場に集められたのは、英美里さんの声かけによるものでした。それが何を意図してのことだったのか……まだはっきりとしていませんが、まずはこのまま、私からいろいろ述べさせていただいてよろしいでしょうか?」
大きく
久我純一と秋月真帆は、何となく緊張した面持ち。
そして、どういうわけか蒼い顔をして
目立った反対意見がない様子なのを確認すると、響子はポケットからハンカチを取り出し、
「では皆さんの了承も得られましたので、改めて鏡さん。まず、
「彼らは、我々の協力者だ」
「我々の、と仰いましたが、あいにく私はあの方たちを存じ上げません。『我々』の定義を確認します。それは私たち『
「聞くが、その二つに違いがあるのかね?」
「もちろんです。
「はい」
響子は突然、花園沙織に問い掛けた。
「あなたは、先ほどグラウンドにいた方たち――男性一人と、少年少女一人ずつの計三名をご存知でしたか?」
「いえ、初めて見ました」
「だ、そうです。鏡さん」
再び龍之介を見て、響子が話を引き取った。
「『
「……」
「それでは、次です」
響子は龍之介の返事を待たずに、次の問いに移る。
「その協力者の
「それは……聞いていない」
「……どういうことでしょうか?」
響子の身体から、青白い炎が立ち昇るかのように見えた。
先ほどまで
「鏡さん、あなたが先ほど仰ったように、黒瀬さんたちが役目を全うしないという理由で『
響子の舌は止まらない。
「しかもその約束事の内容を、私たちは一切知らされていない。となれば、それは密約に
そして彼女の
「……え……えっ!?」
「純一さん、あなたはザハドの言葉――エレディール共通語と言いましたか、それに通じていらっしゃる
「え? は、はあ……」
「答えてください。今回、私たちの大切な仲間が連れ去られたことに関して、どのような密約をザハド側と結んでいたのか」
「え、えーと……それは……」
大いに口ごもりながら、龍之介の方をちらりと見る純一。
転移当初から、久我家の定位置は職員室奥の応接スペースだったが、
具体的には、純一は元々空席だった県職の事務員のところに、英美里も元から
ちなみに涼介の席は、彼の隣りにいつもちんまりと座っていた、今この場にはいない
「お答えいただけないのですか? それとも何か、口止めでもされてますか?」
「いや、そんなことは……」
「別にあなたでもいいのですよ?
響子の
滅多に聞くことのない冷徹で無慈悲な
「あ、あああの……」
「聞き方を変えましょうか、秋月さん。あなたは執行部が抱えている
「え、ひ……秘密、ですか?」
「そうです。先ほど指摘した密約も含めて、あなた方執行部が私たちに隠している
「……」
客観的に考えれば、この場合の沈黙が意味するところは「
秘密などなければ、知らないのならば、そう答えればいいのだ。
橘響子は、どうやら追及の手を鏡龍之介のみならず、執行部全体に伸ばすつもりらしい。
そのことに気付いてか気付かないでか、きょろきょろと辺りを確かめてから挙手する者がいた。
「あの、教頭先生。私からちょっといいですか?」
「何でしょう、
それは椎奈
彼女は立ち上がると、この場にいるもう一人の追及すべき人物である英美里の方を
「
葵の視線は、龍之介に向いていた。
隣のオズワルコスが話の内容を理解しているのかどうか、
「
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