第三章 第108話 鏡龍之介の焦燥
彼にしては大変珍しいことに、
ザハドから呼び寄せたエーヴァウートなる男の指示の
もう一人の教え子である
しかしそれでも、龍之介は口を固く引き結んだまま、何の感想を漏らすこともしなかったのである。
グラウンドの惨状に
ちょうどやってきた馬車の中に、気を失って倒れている
その様子を
彼にとって、それはエーヴァウートたちを
龍之介にとって、自身を決定的に破滅させる
そして、リーダーたる自分に叛逆する存在を許容しないと断言した以上、眼に見える形で
龍之介の望みは――――元の世界である日本に帰還すること。
それは徹頭徹尾、微塵も揺らいでいないし、彼の本心である。
しかし、いざ日本に戻ることが出来るようになった時に、
その秘密が暴露されたら、彼の愛する妻と娘との生活は確実に……破綻する。
ただ一度の
それを回避するためには、どんなことでもするつもりだった。
そう……どんなことであろうとも。
だから、ザハドで過ごしたあの星祭りの夜、怪しげなヘルマイア・オズワルコスが代官屋敷であてがわれた自室を
その名を知る者は全て、消してしまうことを。
――そもそも、オズワルコスが龍之介の下を
ザハド訪問の三日目の夕刻、
その子は朝霧校長に手紙と
龍之介は偶然、その場面を目撃したのだ。
……ただ純粋な好奇心だけで、問いかけるつもりだった。
しかし朝霧校長は、手紙を
龍之介の
当然、龍之介は
一体誰が書いたと言うのか。
何が書かれているのか。
そもそも、先ほどの子どもは何者なのか。
異国であり、異なる言語を使うこのザハドの町で、日本人に手紙で何かを伝えようとする状況など果たしてあり得るのか。
しかし敢えて言及しようとしない朝霧校長の態度を見て、それ以上追及することは何となく
それに、今この場ではなくとも、いずれここで起きたことについて何らかの相談があるかも知れない。
そう考えて龍之介は好奇心と、ほんの少しだけ湧き出た疑念に
――ところが翌日。
学校勢一同は予定通り、隣町であるイストークに向けて出発した。
途中でザモニスという
龍之介は朝霧校長と
一日中動き回って疲れたこともあって、眠気に襲われた龍之介は、腕を組みながら目を
もう少しで寝入ってしまいそうなところで、突然朝霧校長が涼介に向かって口を
『くじのかね……と言うのが何時を指すのか、分かりますか?』
眠気などは一気に吹き飛んでしまった。
涼介は「午後十時のこと」と答えて、それがどうかしたのかと問い返したが、朝霧校長は何となく濁して会話は終了した。
しかし龍之介は、それが前日の手紙に関わることだと瞬間的に思い至ったのだ。
その晩は、サブリナの実家である「
それでも、朝霧校長の動向には油断なく目を配り、果たしてその日の午後十時、龍之介は校長が山風亭のある一室に入っていくのを確認したのだった。
その部屋は、学校勢の誰のものでもなかった。
龍之介の中の疑念が、更に
しかしあいにく、
そして――そんな龍之介の様子は、すべてオズワルコスの部下によって監視されており、当のオズワルコスは
レアリウスの組織体制や命令系統について、龍之介は詳しく把握しているわけではない。
かなり緊密に連携している現状においてもそれは変わっておらず、彼の認識ではオズワルコスが表向き学舎の教師で、実はレアリウスの諜報部門に所属する幹部であるということくらいである。
オズワルコスは、過去のある出来事によって得た、聴覚を拡張する
しかし実のところ、彼は軍事部門の
そしてその事実を、龍之介はまったく知らないのだ。
龍之介は、そんなオズワルコスから接触を受け、彼の話を聞かされた時、当然のことながら非常な驚愕に見舞われることになった。
まさか、龍之介を含む二十三人が突然、この
自分が原因で、多くの人間の運命を変えてしまったことへの申し訳なさのようなものも、彼の脳裏を
しかし、それより何より、彼の意識の大半を占めていたものは「
この事実を誰にも知られてはいけない、という
――そして、その焦燥が「覚悟」に変わるのに、大した時間はかからなかった。
それから龍之介は、朝霧校長を
オズワルコスの協力を
計画を進める中で、八乙女涼介に話が
……計画は、順調だった。
黒瀬真白たちのような、はねっ返りの存在は当然想定内だったし、彼らを
最終的には「プランC」として、強引な手段に及ぶことになってしまったが、彼らも邪魔者として目の前から消すことに成功した。
しかし……あれはいったい、何だったのだ?
エーヴァウートたちが去ってすぐ、
彼らはグラウンドに倒れている天方聖斗を見て、悲痛な叫び声を上げながら駆け寄ると、大きな黒い布のようなもので聖斗の身体を
現れた時と同様に、玲と芽衣も共に。
予想外の、イレギュラー。
龍之介の脳を、新たな焦燥が
容貌からザハドの民であろうことは想像がついたが、彼らが何者なのかということと、今回のことに介入してくる理由、そして玲と芽衣が行動を共にしている
昇降口から出てきて騒ぎ立てる
呆然としている
――どんな手段を
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