第三章 第96話 アウレリィナの記憶 ―6―
「俺は次の
決然と言い切るユーゴ様。
しかし私は禁足地と聞いて、これまでとは別の
「危険だ、ユーゴ。
「やっぱりそう思うか? でも、
禁足地が禁足地たる
前々回の
前回――ユーゴ様が転移してきた時だって、まだ情報としては伝わって来ていないが、禁足地では間違いなく同様の現象が起きているはずなのだ。
「お前の実家のヴァルクス家の報告によれば、俺が転移してきた時にも消失現象は起きたけど、過去に比べて
「え、え?」
「だから、まあ確実なことは言えないけど、禁足地のど真ん中じゃなくて、森に割と近い
「その、
「もちろん、御屋形様さ」
……言われてみれば、それはそうだ。
現状でそんな情報をユーゴ様に伝えられるのは、御屋形様しかいない。
「次の……最後の
「……」
「俺はそのタイミングで禁足地に行って、
「呼び出して……どうするんだ?」
「そりゃ、殺すんだよ」
「……」
「ただ、その場でサクッと
「……」
「身一つで転移してきた
私はユーゴ様の顔を見ることが出来ず、さきほど
そして、同じことを彼はしようとしている。
彼と彼の母親が受けた仕打ちを考えれば、彼を止める気にはなれない。
しかし……。
「まあそんなことを何回か繰り返して……飽きたら殺すよ。でも
「――私は、反対だ」
私は微妙に視線を
しかしユーゴ様は、特に気を悪くした様子もなく、静かに問い返してきた。
「どうして?」
「あまりに
「……」
「私は……ユーゴ、あなたが心配なんだ。
「ありがとう、エリィナ」
その言葉に、私は彼の顔を再び見た。
穏やかな表情だった。
「俺の身を案じてくれるのは嬉しいし、ありがたく思う。お前はいいやつだよ、ホントにさ」
「……」
「でもな、
「
「ああ。何て言ったかな……
穏やかだった表情が、
「俺と母さんは、あいつに散々
何も反論できない。
「エリィナ。俺はお前に、協力してくれとまでは言わない。でもどうか、俺のすることを見届けて欲しいんだ。俺の何もかもを知ってる、お前だけには」
そんな表情で言われたら……私に、
◇
そしてとうとう、ユーゴ様と私は
私たちは、
ユーゴ様が転移してきて、十年が過ぎたということになる。
領都ベルツェロアから海路でアミア、セイスと途中の
そして我が実家で数日、日程調整をした後、
物資を調達し、
森の中には、ヴァルクス家が禁足地監視用に作り上げた拠点――猟師小屋に偽装――があり、そこへは馬車で入っていけるように秘密の道が整備されているのだ。
そこで私たちは、
◇
とうとう、その日が来た。
ユーゴ様と私は、
我が従者のマルグレーテは最後まで同道を主張したが、何かあれば「
これを
森が切れて、禁足地が姿を現した。
何もない、ただ短い
ここからでは、とてもその全貌を見渡すことなど出来ない。
私たちは第一歩を踏み入れると、そのまま西に向かって歩き始めた。
およそ
彼は
そろそろ、
魔石から数メルス(数メートル)離れたところにユーゴ様は立ち、目を
すると……例の
どこかの
(これが、ユーゴ様の父親……
ユーゴ様と同じ
似てる、と言えば確かに……目元に共通点があるように思える。
「来る……」
ユーゴ様が
私には分からないが、彼は
どうやら、
「えっ!?」
突然、驚愕の声を上げるユーゴ様。
見ると、魔石の上の空間に異変が起きていた。
「あ、あれは!?」
魔石の上の映像では、鏡龍之介の元に駆け寄る人物が映し出されていたのである。
それは、二人の少年。
「まずい……! このままだとあの二人まで転移に巻き込んでしまう!」
ユーゴ様の声に、私はぞっとしてしまった。
彼がこれから行使しようとしている
あちらの
その空間内に、人間の
「うぐぐぐぐっ……」
「ユーゴ!!」
胸を押さえながら
それは鏡龍之介と二人の少年を丸ごと包み、さらには部屋全体を、そしてとうとう建物と地面までをその
恐らく、私と同じ懸念を抱いたのだろう。
少年たちを死なせないために、彼は意図的に範囲を広げたのだ。
しかし――
(これは、いけない!)
恐らく
転移範囲がどこまで広がるのか分からないが、大きければ大きいほどユーゴ様への負担は増してしまうだろう。
そして、私と彼まで巻き込まれてしまうに違いない。
私は
彼の
術の
それから、どれほど時間が経っただろうか。
息が切れて、足を止めざるを得なくなった私は、そこで初めて振り向いた。
およそ
「あれは……」
「エ……リィ、ナ」
腕の中で、ユーゴ様のか細い声がした。
「だ、大丈夫か!?」
「済まな、い……」
彼の目は既に閉じかけ、私を認識しているかどうかも分からない。
「おいっ、死ぬな!」
「しくじっ……た……、学校丸……ごと、呼び出しち……まった、よ」
「もういい! しゃべるな!」
「俺の復……讐に、関係、ない人……たちを、巻き込ん、じまっ、た……う……助けてやって、く……れ……――――」
「ユーゴ! おいっ! ユーゴ!!」
そのままユーゴ様の腕は、だらりと力なくぶら下がった。
死んでは、いない。
それは分かる。
しかし、このままでは――――
――その時。
私の耳に、聞きなれた車輪が
音のする方向を見ると、見慣れた馬車が近付いてきていた。
「アウレリィナ様」
降りてきたのは、マルグレーテだった。
「グレーテ……どうして、ここに?」
「……
「……御屋形様から?」
「はい」
マルグレーテは神妙な顔で答えた。
「ユーゴ様とアウレリィナ様を、一定時間が経ったら馬車で迎えに行くように、と」
「何? ……その
「イルエスの
「!」
御屋形様は……一体、どこまで……?
「さ、ユーゴ様を馬車に。ザハドに戻り、まずはそのまま
「……」
「馬車には
「……分かった」
◇
こうしてユーゴ様は、目を覚まさぬまま我が実家へと運ばれ、さらにイルエス家へと送られ、ベルツェロアの屋敷で療養することになった。
私はと言うと、マルグレーテと共にザハドに残ることにした。
ユーゴ様の言葉に従って、
◇
時は少しだけ
アウレリィナは当然知る
その瞳は
それを知る者は、彼自身しかいない。
「……許せよ」
グリンデアは小さく独り
「まだ見ぬ、
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