第三章 第93話 アウレリィナの記憶 ―3―
「――ユウゴ・ホンダを、我が
当のユウゴは、グリンデア様――
「この者は今この時を
グラナバルニア様とジュネヴィーラ様という
同様の疑問を覚えた者が多数いるのだろう、広間は
御屋形様は、軽く手を挙げて場を制して続けた。
「心配せずともよい。
奥さまであるルドミラヴィカ様は、ジュネヴィーラ様を両手で
ユウゴはこれまで、イルエス家の遠縁の
私と同じような待遇である。
しかし、これからは違う。
養子とは言え、御屋形様のご子息になったのだ。
実子のお二人と同様に「ユーゴ様」と呼ばなくてはならない。
これは堅苦しいとかそういう話ではなく、明文化こそされていないがある意味「
しかし、最も揉め事の原因となりそうな家督継承の件については明言されたものの、肝心の彼が養子とされた理由には一切触れられなかった。
ただ……私だけではなく、他の者たちも何となく察しているはずだ。
それはイルエス家の特殊性を知る者であれば、誰もが容易にたどり着ける
恐らくグリンデア様は、「
この光景を。
養子にどんな
すでにそういう
――そして私と
◇
「なあ、エリィナ」
「何でしょう」
「
ユーゴ様は、
「その
「なりません」
もう何度、このような
「何だかさ、よそよそし過ぎるっていうか、落ち着かないんだって」
正直言えば、私だって本意ではない。
今までのように、もっと気安く言葉を交わしていたいと思っている。
「もうあなた様は、イルエス家のご子息なのです。私からすれば
それでも、緩ませてはいけないところだと、固く自分を
「それはそうなのかも知れないけどさ、今みたいに二人しかいないんだったら別にいいと思うけど?」
「……なりません」
二人しかと言うが、まずそこはユーゴ様の私室。
今は定例の
二人とも壁際で
「……だったらもう、俺はしゃべらないから」
「またそう言うことを……あまり困らせないでください」
「……」
ユーゴ様はつん、と横を向いたまま
……仕方ない。
「――この時間だけだぞ?」
ぼそりと
「よしよし! エリィナはそうでなきゃな!」
「まったく、仕方のない人だ」
何だか憎たらしく思えるほどの満面の笑みに、私も控えている従者たちも苦笑するしかなかった。
ちなみにだが、私とユーゴ様の会話は
そうする中で、相手側の言葉に訳しきれなかった部分を指摘し合いながら、
こうして彼の
◇
「なあ、エリィナ」
「ん?」
ある時、いつになく真面目な顔でユーゴ様が言った。
もちろん、語学訓練の
「まずお前には話しておこうと思ってさ」
「……分かった。聞こう」
彼の
しかし、ユーゴ様は私の顔を見たり、眼を
それでも私は
「――
「御屋形様に?」
「ああ」
そうしてまた、口を閉ざしてしまう。
相当に言いにくいことなのだろうと察したが、自分でも考えてみた。
ユーゴ様がグリンデア様にお願いしたいことが、一体何なのかを。
とりあえず生活をしていて、不足したり不満に思ったりすることはないだろう。
少なくともそう思えば、こんな風に私に言わずとも、従者にひとこと告げれば大抵のものは融通してもらえるはず。
そうなると、御屋形様でなければどうにもならないこと、という
「――
「はあっ!?」
私は驚きのあまり、思わず立ち上がってしまい、目の前の
マルグレーテとユーゴ様の従者も、目を丸くしている。
「な、何を言っているのか自分で分かっているのか!?」
このように取り乱すことが、
「ト、
「落ち着けってば、エリィナ」
取り乱す私とは対照的に、ユーゴ様は穏やかな顔で苦笑する。
その様子に、私は落ち着くどころかより一層
「俺だって分かってるさ。御屋形様に聞かされているからな」
「だったらどうして!?」
「聞かされているからこそ、なんだよ」
「はあ?」
それにまつわる
それは
ミラドが父なる
主神の座と同時に
――
つまり
ひとつここで訂正しておかねばならないのは、父なる神の
望星教会には
そして現在、
グィード・イルエス――
これが、イルエス家の驚くべき出自の
そして
「そのようなこと、御屋形様は決してお許しにならない」
私は辛うじて、それだけを絞り出すように言葉にした。
ユーゴ様は、もっともだと言いたげに首を縦に振る。
「もちろん、普通ならそうだろうな」
「だったら、なぜ……?」
「俺にはどうしても知りたいことがあるんだよ」
「知りたいこと?」
頷きながら、何となく遠い目をするユーゴ様。
私には「彼が知りたいこと」が、何となく想像がついた。
「しかし、イルエス家の者以外には決して……」
「ああ。でもさ、結局それを判断するのは御屋形様だろ?」
「それは……そうだが」
「それにお前、忘れてるだろ?」
「? 何をだ?」
「俺だって……
「あ……」
「そりゃ、血こそ繋がっちゃいないけどさ」
そこで私は、
御屋形様がなぜ、ユーゴ様を
◇
――翌日、私は自分の
そしてそれこそが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます