第三章 第85話 小さな針
ヴァーングルドは少しだけ表情を引き締めると、
蓮司はサバイバルナイフを
しかし、
彼がナイフ格闘術などかじったことすらないズブの素人であることは、専門家たちの目には明らかだった。
それに気づいた
「瓜生先生! ダメです!」
蓮司は
「僕は多分、全然役に立たない。分かってるよ。でもね、だからと言って君たち子どもを
「先生……」
「君は強いんだろう? 神代君。なら、僕のことはうまく使うんだ。盾でも踏み台でも構わないから」
「そんな!」
「そして……済まないが
「よく分かんねーが、
そこからは一瞬だった。
いつの間にか至近距離にまで近付いていたヴァーングルドの左回し蹴りが、蓮司の右手からサバイバルナイフを弾き飛ばした。
そして、次の右回し蹴りで今度は蓮司自身がナイフと同じ方向に吹き飛んだ。
ごろごろとグラウンドを転がった蓮司は、
(は、速すぎる……)
朝陽は自分の目を疑わんばかりだった。
蓮司の陰に隠れていたとは言え、技の
朝陽の隣りにいた
いち早く衝撃から立ち直った
「瓜生先生!」
澪羽が呼び掛けても、身体を揺らしても蓮司からは何の反応も返らない。
辛うじて呼吸は確認できたことで、澪羽は安堵のため息を大きくついた。
「次は今度こそお前の番だぜ、
これまでの会話から、ヴァーングルドは聖斗の名を類推したらしい。
まだ驚愕
そして、ヴァーングルドの言葉と同時に、セラピアーラが朝陽に滑るように、静かに襲いかかった。
◇
その時、
目指すは、
求めるは、
玲の右手に握りしめられているのは、「
エレディールにおいては特に問題のないその条件も、
しかし「小さな針」は、言語伝達機能を削減し、効果の及ぶ距離を制限することで誰でも使えるように設計されたものである。
決して日本人向けに作られたものではないが、いちいち
「玲さん、もう使いました?」
「うん、とっくにね」
息を
先日、二人が偶然
※※※
「これ、持っててね」
「……何? これ」
「『小さな針』って言うの。簡単に言えば……そうねえ、うーん、連絡用の鈴かな」
「はあ……」
「緊急時とか、何か私たちの力が必要な時とかに、これを指で
「……学校からでも?」
「もちろん! ちゃんと届くから安心してね!」
※※※
そしてそのすぐ
一体何事かと玲がグラウンドを
それは、鏡龍之介たちと天方聖斗たちが対峙しているという姿だった。
ただ事ではないと感じた玲は、既にその時点で肌身離さず持っていた「小さな針」を、ほぼ反射的に
そして、驚いている
実を言うと「小さな針」を使ったら何が起きるのか、玲と芽衣は正確に把握していなかった。
ただ「伝わる」としか知らなかった。
だから、とりあえず
「あっ、玲さん! あそこ!」
「えっ?」
突然立ち止まって、芽衣が何かを指さした。
見ると、複数の人影がこちらに向かって物凄い速さで近付いてきている。
その数、五人。
先頭には、先日
「玲ー! 芽衣ー!」
シクラリッサ――クラリスたちは、あっという間に玲たちの元に
彼女自身も、その後ろにいるアイドラッド――ラッドや見知らぬ三人も、息
「どうしたの? 緊急事態?」
「うん、多分」
玲の返事で、クラリスは南西の方を見て尋ねた。
「学校?」
「うん」
「急ぐ?」
「うん」
「それじゃとりあえず、移動しながら説明してもらおうかな」
「分かった」
◇
そして、彼らが学校のグラウンドに到着した時。
玲たちが見たのは、血に
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