第三章 第54話 最善手
「ええ。その、カルヴァレスト殿に関するものなのですが――――彼がレアリウスの者であると言うのは、本当のことなのでしょうか?」
いかにも心底困ったと言う
(一体どこまで、
白々しいノストレームの
しかし、そんな素振りは欠片も見せずに答える。
「どこからそのような
「これは失礼いたしました」
対するノストレームの表情からは、何も読み取れない。
相変わらず涼しい顔をしたまま、小さく頭を下げた。
「確かに確たる証拠はありません。しかし『
「まさかとは思いますが、
「貴様……
ノストレームの横に立つ
リューグラムはそれを手で制しながら答えた。
「そのようなことはない」
「
「いかにも」
しれっとこう答える辺り、リューグラムも
実際のところ、
「分かりました」
リューグラムの表情を確認して、ノストレームは一応引き下がった。
もちろん納得してのことではないことぐらい、彼にも分かっている。
ヴァイクライトのにやにや顔も勘に触るが、挑発には断固として乗るつもりはないと表明するかのように、リューグラムは彼の姿を視界から微妙に外している。
「噂のご本人もどうやらいらっしゃらないようですし、ここは
ノストレームは胸の紋章に握りしめた
「
「……うむ」
「あの時には、多くの尊き命が失われました。もちろん、望星教においても被害は甚大でした。しかし」
隣りにいるヴァイクライトをちらりと見て、ノストレームは言葉を続けた。
「こちらのヴァイクライト団長のご活躍によって、それら大いなる
いつしかノストレームの言葉は
身振り手振りまで加え始め、さながら
「ただ」
突然、ノストレームの動きが止まる。
これまでずっと涼しげだった彼の
「レアリウスの本体はピケではなく、ザハドにあります」
驚いたことに、ノストレームの両の
「かの
ノストレームは右手を高く
まるでそこに、神自身が
「
「
ノストレームの
リューグラムたちは言葉もなく、ただただ圧倒されていた。
リューグラム自身も、
と言うより、事実上望星教が国教となっている現状では、ほとんど全ての
それに、十年前にピケで起きた事件についても、リューグラムは父親からレアリウスの危険性は伝えられていたし、先ほどイングレイ・カルヴァレスト自身から事の経緯や内情について告白されたことで、非は明らかにレアリウス側にあると分かっている。
つまり、今のところ望星教会について責め立てるようなことはないのだ。
(しかし……何なのだ、この不安は……)
それでもリューグラムは、とてもではないが目の前の男たちに合わせて唱和する気になどなれなかったし、ましてや望星教会に力を貸そうなどと言う思いは
レアリウスの本来の
「お判りいただけましたか?
先ほどの異常な熱量はどこへやらという感じで、ノストレームは再び涼やかな表情を取り戻しながら、口を開いた。
「分かった。胸に刻んでおこう」
それでも表向きには動揺を見せず、落ち着いて無難な言葉を返したリューグラムも、なかなかの胆力と言っていいだろう。
それは
◇
そこでは、今後のことについてまだ打ち合わせが残っている
部屋を移したのにはもちろん、万が一の時のために、望星教会の目が届かない場所へ
リューグラムとしてはレアリウスへの対策だけでも頭が痛いのに、望星教会まで絡んでくると余計に事態が複雑化して、正直投げ出してしまいたくなる気持ちは否めないところ。
おまけに、この件については
絶妙な
それでも、レアリウスに対する方針をああして明らかにし、ある意味裏切り続けていたと言ってもいいイングレイ・カルヴァレストの処遇をあのようにしたことを、彼は後悔していない。
道筋を決めたからには、泣き言を
しかし、それにしても――
(――リョースケ・ヤオトメか……)
不思議な存在だ。
思えば
話によれば、ヤオトメは元いたガッコウという場所を、冤罪で追放されたと言う。
それから隣町とは言え、それなりに距離のあるこのピケに現れた。
そして今、レアリウスや聖会、望星教会とのやり取りする場にもああして姿を見せ、関わることになっている。
黒髪黒目という部分はともかく、ヤオトメのような風貌・雰囲気を持つ人間はエレディールでも特に珍しいわけではない。
(特別に力のあるような人間には、とても見えないのだがな)
それなのに、何らかの重要な局面となると、気付けばそこにいるのだ。
もちろん、彼自身が異なる世界からやってきたという特別な事情もあるだろう。
(彼らに聖会の巫女と会うように勧めたことは――恐らく間違っていない)
――最善手? 何にとってのだ?
それがヤオトメたちの望む元の世界への帰還についてなのか、エレディールの未来にとってなのか、はたまたアリウスとテリウスを巻き込んだ世界の行く末に関わることとしてなのか――――
分からないながらも、自分のとった選択肢に対する不思議な自信に小さな笑みを浮かべながら、リューグラムは八乙女涼介たちが待つ部屋へと足を速めるのだった。
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