第三章 第52話 四者会談 ―10―
「あなたは、
ヴィルグリィナ……?
人の名前だろうか。
リューグラムさんは続ける。
「一般的には、神に仕える女性のことを指すのだが、私が言うのは先般から話題に
「聖会の……
確かに何度もその名は上がっているし、
そこの巫女様ともなれば、重要人物だろうことは想像に
「巫女殿こそ、八乙女さんたちが知りたいことについて、誰よりも
「そうなんですか?」
「ああ。彼女こそが『
「特別……ですか」
「巫女と言う存在がそもそも、そういうものなのかは分からない。しかし、彼女が
どうしようか。
思わぬ選択肢を突きつけられてしまったな。
聖会の巫女様、か……ん?
こちらでやり残したことってことは、近くにいるって意味なのか?
「もちろん、選ぶのはあなただ。もし予定通りヴァルクス家へ向かうと言うのなら、次の
「ただ、何でしょうか?」
「私が見るに、巫女殿はどういうわけか、あなた方ニホンジンにとても
……どういうことだ?
好意的だってのもそうだが、日本の事情に通じてる?
俺たちの
まさか……鏡先生ってことはないだろうな?
これは、確かに興味を
情報収集の一環としても有用なら、会っておくべきかも知れない。
俺は、隣りで静かに話を聞き続けている
「瑠奈はどう思う? その巫女って人に会った方がいいと思うか?」
彼女は数秒ほど考えた
それで俺の心も決まった。
「分かりました。私たちはその、聖会の巫女という方にお会いしようと思います」
「そうか、分かった。私もその方がいいと思うよ。
「はい」
コレットは、
「私の
「なかなか見上げた心構えだ。では聖会の件については後ほど、具体的な話をすることとしよう」
リューグラムさんの言う通りだ。
命令だからなんだろうけれど、ここまで一生懸命俺たちを守ろうとしてくれるコレットの態度が、何だかめちゃくちゃ嬉しい。
「そして、イングレイよ」
「はい」
「お前の主張はしっかり理解したつもりだ。
「リューグラム家は、聖会に与すると
「そうだ。
力強く
きっぱりと言われて、心なしか表情も暗い。
「それにだ。お前の言う、レアリウスの急進派が軍事力を増大させていることは
「それは……仰る通りでございます」
「しかし……『デンキ』の知識と技術を得て、もしかしたら合一を阻止、ひいてはエレディールの混乱を未然に防げるかも知れないという可能性を、
「……?」
「故に、非人道的な手段を取らないという
「! ディアブラント様!」
リューグラムさんの後ろで控えていたラーシュリウスさんが、思わずと言った感じで声を上げた。
それを手で制して、リューグラムさんは続けた。
「だが、そのためにお前にはどうしても、してもらわねばならぬことがあるぞ?」
「せねばならぬこと……それは?」
リューグラムさんは俺の顔を見て、再びカルヴァレストさんに視線を戻した。
「『
「ま、
「このようなことを冗談で言うほど、性格の悪い
「
神妙な表情で、カルヴァレストさんは答えた。
でも、
そりゃそうだろう。
一度断ち切れたと思われた希望の糸が、実は
「しかし、必ず成し遂げることをお約束いたします。それも
「うむ」
「
「まあ
「はい。こちらで把握しているだけでも、
「できるのか?」
「はい。
カルヴァレストさんの言葉を聞いて、リューグラムさんは少し考えてから「分かった。任せる」と言った。
どうやらこれで、四者の今後についてある程度の
最初のとんがった空気を感じた時には、どうしたものかと不安になったけれど。
「それで、イングレイよ」
「はい」
「お前の、リューグラム家における今後の身の振り方だが」
「はい、承知しております」
そう言うと、カルヴァレストさんは立ち上がった。
そのまま深々と、リューグラムさんに向かって頭を下げる。
「この
「いや、待て」
「……は?」
顔を上げたカルヴァレストさんが、首を傾げる。
「とりあえず、トライヴァルトに
「……はい」
「改めて申し付ける。お前はレアリウスに
「かしこまりました、御屋形様」
再び頭を深く下げるカルヴァレストさん。
リューグラムさんの後ろにいるラーシュリウスさんの
でも、リューグラムさんにも思うところがあっての判断なんだろう。
部外者の俺が口を出すべき話じゃないよな。
「さて、これにてそれぞれの次の目的が決まったな。八乙女さん」
「はい」
「この後、聖会の巫女殿に会うための具体的な動きについて詰めよう」
「分かりました。お願いします」
「イングレイとも、話をより具体的にする必要があるな」
「仰せの通りでございます」
よかった、よかった。
これで四者会談を開いた甲斐があったってもんだ。
……まあ正直、ひとつだけ気になることがあるんだけどね。
このピケでは、話によると十年前にレアリウスと
その後の
あったら余計に面倒なことになりそうだから、ぜひこのまま向こうからの接触がないことを願うんだけれど――――
コンコンコン。
室内にノックの音が響いた。
「何だ」
リューグラムさんが
すると扉が静かに開いて、男の人が部屋に入ってきた。
「お話し中申し訳ございません、
「どうしたトライヴァルト。急ぎなのか?」
お、この人がさっき話に出てきた、副家宰だか副執事だかって人か。
恐らく俺より年上であろうカルヴァレストさんに比べて、大分若い感じがするな。
「はい、お客様がお見えになっておりまして……」
「客だと? この時間、他の約束などなかったはずだが」
「はい、それが」
トライヴァルトさんは、とても申し訳なさそうな表情で頭を下げつつ言った。
「望星教会の方がお見えになっております。約束はしていないが、御屋形様に大事な用件があると、強硬に
……もしかして俺、立てちゃった?
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