第三章 第48話 四者会談 ―6―

 ……ダメだ。

 これ以上はマジでついて行けない。


 祖王アヴァロアとか反祖王アヴァロア・レーヴとか、地ががれたとか、新しい言葉や概念が次々と襲ってくるわ、それらの意味がちんぷんかんぷんだわで、このままだとこの会談の単なるお客さん・・・・になってしまう。


 流れにさおさすようで悪いとは思うけど、ちゃんと理解させてもらわないと、俺の求める情報――元の世界へ帰る方法――が、いつまでっても得られないままだ。


 とりあえず、レアリウスが聖会イルヘレーラから分離して出来たってことだけは確認できた。


「答えてもらってありがとうございます、カルヴァレストさん。祖王アヴァロアとか反祖王アヴァロア・レーヴというものが何なのか全然分からないのですが、私なりに整理するとこんな感じです。どうでしょうか?」


・大昔に、神様たちの戦争があったわけじゃなくて、「祖王アヴァロア」と言う人がいた。

・その祖王が地面をがして、アリウス祖の地テリウス剥がされた地という二つの世界が生まれた。

・アリウスとテリウスは、すれ違っている。

・アリウスとテリウスは、いずれ合一ミラン・イース――つまり一つになる。

・あるお方と言う人が聖会イルヘレーラを作り、その合一を阻止する方法を探るためにレアリウスも作った。

・あるお方は、結局のところ合一は阻止できないと判断してレアリウスを閉鎖した。

・カルヴァレストさんのご先祖様はそれが不服で、聖会を離脱して新しくレアリウスを設立し直した。

・新しいレアリウスは合一を阻止するために、祖王に対抗する「反祖王アヴァロア・レーヴ」を作りだした。


「お見事でございます、八乙女様ノスト・ヤオトメおおむねその通りでございますが、二点、訂正をお願いいたします。まず、祖王は人ではございません。もう一つ、地が剥がれて新しく生まれたのはテリウスだけでございます」


「テリウス、だけ?」


「はい。アリウスは『祖の地』――つまり、元々あったこの世界のことであり、そこから剥がれて生じたのがテリウス。わたくしたちはそう認識しております」


「と言うことは、テリウスってのは――」


「ご明察の通り、八乙女様たちの世界のことでございます。あなた方が住んでいらっしゃった場所は、要するに本来存在することのなかった『異世界ソリス・マルサーマ』なのでございます」


 …………は?

 思わず出そうになった、「異世界はそっちだろう」という言葉を、俺は何とか飲み込んだ。


「この結論エルディヴィアスは、あるお方からレアリウスに伝えられている事実イザヌ・エレ、カルヴァレスト家に残されたリブロ記録コルディウムなどから導き出されたものにございます。真実かどうか、確かめるすべは正直申し上げてございません。しかし、八乙女様のいらっしゃった世界では魔法ギームが存在しないとのこと。そうでございますね?」


「は、はい。魔法はあくまで空想の産物でした」


「それは恐らくですが『魔素ギオ』がないゆえであると、私は推測しております。それはつまり、八乙女様の世界が『特別プラティエリィ』なものであることの傍証ぼうしょうになり得ると愚考いたします」


「あ、あ……えーと」


「本来、あまねく存在するはずの『魔素ギオ』が存在しない、剥がれた世界イステリウス。しかしそれゆえに、必然的に魔法ギームに頼らない形で世界は発展を遂げたのでございましょう。そのおかげで、レアリウスの存在価値は俄然がぜん、高まったのでございます、御屋形様ノスト・ユーレジア


「む? それはどういうことだ、イングレイ」


 突然話を振られたリューグラムさんは、俺にとって驚きの話にもそれほど動揺していないように見える。

 何だか別の情報ソースがある、みたいなことを言っていたが、もしかして既に彼はこのことを知っていたのだろうか。


「合一を阻止せんと、『反祖王アヴァロア・レーヴ』を創り出したレアリウスですが、その研究キムスおも制御部分ルス・インペリールで行き詰まりを見せておりました。しかし、八乙女様たちのもたらした知識シグレッドである『デンキ』なるものが、大いなる可能性を秘めていることが判明したのです」


「デンキ……ああ、そう言えば……」


「そうでございます。『ガッコウ』を視察イクスパクトされた御屋形様であればご存知でしょう。かの『動く絵イルディア・モヴィ』や、魔素によらない照明ロミナなど、『デンキ』を元にした技術ロジカの数々を」


「見た。確かに見た。しかし、それが何だ?」


「ニホンジンの知識によりますと、わたくしたち人間フマノスを始め、生きとし生けるものオラルドーラは例外なく、その『デンキ』とやらで動いているそうでございます」


 ん?

 確かにそれは、俺たちにとっては当たり前のような知識だけど……なぜそのことをカルヴァレストさんは知ってるんだ?


 ――いや、そんなの分かりきっている。


 日本人である俺たちの誰かから、聞いたんだ。

 それで、オズワルコスさんがレアリウスだって言うのなら、当然カルヴァレストさんにまで伝わっていたとしても、何の不思議もない。


 で、誰かって言うのは――――恐らくは、かがみ先生。


「『デンキ』という新しい知識と技術によって、行き詰まっていた『反祖王アヴァロア・レーヴ』の研究は大いに進むと見られております。なればこそ、『祖王アヴァロア』に対抗して合一を阻止することも、単なる夢物語ではなくなるのでございます」


ゆえに認めろと言うのか。レアリウスの存続を」

「その通りでございます、御屋形様」


 カルヴァレストさんは、リューグラムさんの目を力強く見据えたあと、座ったまま深々と頭を下げた。

 リューグラムさんは、口をひらかない。

 すると、カルヴァレストさんは頭を上げ、話を続けた。


「研究に行き詰まり、焦りを見せたレアリウスの生体部門サラト・コルポラは、その打開のためにあらゆる方法ミトロスを模索するようになり、その一部が先鋭化し始めました。そして、ひそかに『人間狩りヴィク・フマノス』に手を出したのでございます」


「……何だと?」


「そのことをぎつけた望星教会エクリーゼが、レアリウスを『邪教シージャー』として攻撃を始めたのです。それが十年前のピケで起きた事件の経緯フォノロアなのでございます」


「それはまことのことなのか、イングレイ」

「はい」


 リューグラムさんの言葉に、剣呑けんのんな色が混じり始める。

 カルヴァレストさんは、それを真正面から、しかし少しうつむき加減で受け止めて続けた。


 ……十年前のピケの事件って、何だ?


わたくしとしても、生体部門の暴走については忸怩じくじたる思いをかかえております。あの事件は決して、レアリウスの総意の結果として起きたものではないのでございます」


「……何故なにゆえ、その生体部門とやらは『人間狩り』などを始めたのだ?」


「もちろん、良質な胸腺タロスを求めてのことにございます。『反祖王アヴァロア・レーヴ』は魔石ギムピードを元に創られております。魔石はご存知の通り、胸腺の一部でございますゆえ


 ……え?

 ……何だって?

 魔石が、胸腺の一部?

 あの深い紫色をした、小さな石のようなものが?

 星祭りで、団子に詰めて飛ばした、あの石が……胸腺?


「しかし生体部門は、『デンキ』というものを知ってからも、良質の魔石を使った研究を中止しておりません。それどころか、望星教会の脅威に対抗するために、軍事部門サラト・アミリスと結託して新たな兵力ヘルモスの創出にいそしんでおります」


「何……?」


わたくしたち『五司徒レガストーロ』は、それぞれ各部門をつかさどっております。先述の生体部門と軍事部門に加え、財務部門サラト・ナルザック統括部門サラト・ペルガード、そしてわたくし諜報部門サラト・リージェンスでございます。その内、生体・軍事・統括部門のおさは軍事力の強大化を推し進めようとしております」


「……」


「私の部下であったオズワルコスという者が、実は軍事部門から送られてきた密偵ジェンティスだったことも判明しております。わたくしとて決して手をこまねいているわけではないのでございますが、レアリウス全体の趨勢すうせいというものが、わたくしと財務部門の長であるカミレヴィーラ・エルヴェスタムの手足を縛っているのでございます。それ故、レアリウス全体の暴走を止め、合一の阻止というレアリウス本来の目標に注力する為に、敢えてわたくしは自らの正体をさらし、御屋形様にご助力をお願いしているのでございます」


 怒涛どとうの如きカルヴァレストさんの弁に、俺はただただ言っていることを把握することで精一杯だ。

 さて……どうしたものか。

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