第三章 第47話 四者会談 ―5―

 正直なところ、頭が大分だいぶこんがらかってきている。

 だけどこのまま、分からないまま話を進められては困ってしまう。


 あ、ちなみだが、とても口頭での会話だけじゃつかみきれないことが多すぎるので、必要に応じて精神感応ギオリアラを併用させてもらっている。


「ちょっと話を整理させてください! すみません」

「どうぞ、八乙女様ノスト・ヤオトメ


「ありがとうございます。今、カルヴァレストさんが言ったことはつまり、『神様たちが戦ったことでエルカレンガが起きた』ということでしょうか?」


 俺の質問に、カルヴァレストさんは困ったように眉根を寄せた。

 これまで立て板に水の如くすらすらと話していた彼にしては珍しく、何かを考えているふうだが……何か変なこと聞いたか? 俺。


 リューグラムさんは、何も言わずにカルヴァレストさんを見ている。


「失礼いたしました。八乙女様ノスト・ヤオトメの認識で合っております。ただ、『旧き神々の闘争ヴァルカ・ノヴィナ・ステーラ』そのものについては、実際に起きたのかどうか非常に疑わしいドゥビラスのでございます」


 ……余計に分からなくなった。

 戦いそのものは起きてないのに、エルカレンガは起きた?


神話ミオタソイルと言うものは、今では考えられないような奇想天外ラガーリアな事象が記録されていること、多々ございます。しかしそれらが全くの創作クルスコープというわけでもなく、一片の真実ブルッツヌヴェロスを含むこともまた、よく知られていることでございます」


 それは、そう。

 まあ時の権力者たちが、自分たちに都合よくでっち上げたり、ゆがめたりすることはあるだろうけれど、話の元となった出来事は何かしらあったと俺も思う。


 ……ってことはあれか?

 神様たちのバトルじゃなかったかも知れない。

 でも、何かが起こって、それがエルカレンガに繋がったって言いたいのか?


「それならカルヴァレストさん、神様の戦争じゃないのなら、何が起こったって言うんでしょうか」

「八乙女様、それにお答えする前に我がカルヴァレスト家について知っておいていただきたいことがございます」

「……? はあ」


 そう言うと、カルヴァレストさんはリューグラムさんに向き直って問い掛けた。


「御屋形様、わたくしの家、カルヴァレスト家イル・カルヴァレストがどのような出自であるかはご存知でいらっしゃいますか?」


 突然、カルヴァレスト家の素性を尋ねられたリューグラムさんは、少しだけ虚を突かれた感じで、それでも記憶を手繰たぐり寄せているような表情で答えた。


「カルヴァレスト家は……代々、我が寄親よりおやたるリンデルワール凰爵家イル・バルフォーニア・リンデルワール(こうしゃくけ)の家宰メナールを務める家柄ドモス・エゴイラ。リンデルワール家だけでなく、寄子よりこの家にも家宰として人員を送りこんでおり、お前もまた、その一人……であろう」


「仰る通りでございます。しかし我が家の始祖は、遥かな古代にまでさかのぼります。ディヴ五百年前に起きた『すれ違いエルカレンガ』によって、ここエレディール西部地方におこっていた古代西部帝国後期グゼルニア本国エル・ネトロ消失ヴァンした際、全ての属国エル・ヴァザルは二つに割れました。即ち、本国の滅亡を機に独立しようとする勢力と、当時大陸中央で大勢力となっていた新生ナーズエレディールにくみせんとする勢力でございます」


 何だ何だ!?

 歴史の話が始まったんだが。

 関係あるのか? これ。


「当時、数ある属国のひとつの貴族ドーラであったカルヴァレスト家は独立支持勢力、隣りの属国の貴族であったリンデルワール家はエレディール派でございました。結局、強大になっていたエレディール本国の後押しもあり、独立勢力はほとんど駆逐され、カルヴァレスト家も当然取り潰しディスバターナき目にいました。しかし、そうして平民プレボスに落とされた我が家を、個人的な友誼ゆうぎで繋がっていた当時のリンデルワール家当主が拾ったのが、今の関係の始まりだったそうです」


「ふむ」


「そのごたごたに紛れて、それまでにカルヴァレスト家に長きに渡って蓄積されていた蔵書や記録の多くは散逸さんいつしてしまいました。しかし、残されていた数少ない書にしるされていたのでございます――『地は剥がれたテーロスナユーノイステル』のだと」


 ナユーノ・イステル……がされた……?


「そして、あるお方・・・・・によって名付けられました。元々あったこの世界を『アリウス祖の地』、そしてもう一つの世界を『イステリウス剥がされた地』と。いつしか『イステリウス』は『テリウス』と呼称されるようになりました。と言っても、その存在を知り、そう呼ぶのはほんのひと握りの事実を知る者たちだけに過ぎませんが」


 あるおかた……?

 テリウス……剥がされた地?

 この世界がアリウスって言うのなら、テリウスは――――


「イングレイよ、あるお方と言うのは――」


聖会イルヘレーラを作り、その中に合一ミラン・イース阻止マリハーヴする方法ミトロス研究キムスする部門サラト――即ち『レアリウス』を立ち上げたお方にございます。そしてそのお方は、長い長い研究の結果エルディーヴ、合一を阻止することは不可能イネヴレークだと結論付け、レアリウスを閉鎖ローデルされたのです」


 あれ……聖会イルヘレーラ

 確か、コレットたちと話していた時に名前が出てたな。

 何でも、大昔にその聖会から分離する形でレアリウスが出来たって言ってた。


「あの、カルヴァレストさん」

「何でしょう、八乙女様ノスト・ヤオトメ

「私が聞いた話ですと、レアリウスはその聖会から分かれて出来たってことなんですけれど……」


 俺の言葉を聞いたカルヴァレストさんは、少しだけ目を見開いて、感心したように答えた。


「これは……八乙女様も既にその話を聞き及んでいらっしゃったのですね。結果的には仰る通りになります。そのお方がくだした決断エラバキア――レアリウス部門の閉鎖――に不満プラレアを持った一部の者たちが聖会を離脱し、別組織として新たなレアリウスを立てたのでございます。カルヴァレスト家は、その中心的な役割ロロになっておりました」


「つまり、だからこそカルヴァレスト家には、レアリウスに関する詳細が伝わっていると言いたかったわけだな? イングレイよ」

おおせの通りでございます」


 軽く頭を下げるカルヴァレストさんに、リューグラムさんは少々顔をしかめながら続けた。


「お前の発言の信憑しんぴょう性を高めるのに必要なことだとは言え、何とも回りくどい話よ。そもそも、お前の言うことが本当かどうかは別のことだ。しかし今はその真偽を問うているいとまはない。とりあえずそれがまことの話とした上で、八乙女さんの問いフラジオンく答えるがよい」


「かしこまりました、御屋形様」


 改めて俺の方へ向き直るカルヴァレストさん。

 俺の問いというのはもちろん、神々の戦争じゃなければ何が起きたんだという話。


 しかし……もちろんその答えも気になるが、何度も出てきている『あの方・・・』ってのも引っ掛かるな。

 相当な重要人物のようだけれど、聖会を作ったり、レアリウスを部門として立ち上げたりしたってことは、つまりは過去の人物だ。

 余計に話をややこしくしないために、聞くのは後回しにしておこう。


「ここからが、レアリウスの存在意義に直結する話になるのございます」


 カルヴァレストさんは、そう前置きして話を続ける。


「正直なところを申し上げまして、しんに何が起きたのかは、具体的に伝えられておりません。ただし、それに関係した存在エートレが言及されております。それこそが、『祖王アヴァロア』なのでございます」


 アヴァロア……祖王そおう

 王って、王様か?


「何故そのような存在が生じたのかは、一切分かっておりません。知る限りの知識から導き出したすえ、地をがす原因になったのが『祖王アヴァロア』だという結論に至っております。そして、収束しつつある『すれ違いエルカレンガ』を再び活性化させ、合一がるのを阻止マリハーヴするためにレアリウスが作り出したものが、『反祖王アヴァロア・レーヴ』なのでございます」

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